粳と餅

イネには水稲陸稲てう系統の他に、ウルチとモチの二系統がある。水稲の97%がウルチであり、陸稲は100%近くがモチである。
ウルチとモチは精米後の透明度に因って区別出来る。モチ種が白く濁ってゐるのは、米粒の中に含まれてゐる澱粉の隙間に空気が入る為で、俗に「はぜる」と言ふ。
日本列島にどちらが最初に伝へられたかは不明だが、弥生時代頃の中国の史書に見られる「稲」てう文字は、モチゴメのことをさしてゐた可能性が高い。
中国雲南から広西壮族自治区、泰の北部〜東北部やラオスビルマの一部には、モチイネだけを栽培してゐる「モチイネ栽培圏」と呼ばれる地域が有る。そこでは日常の主食の全てがモチゴメで、普通は蒸して食べ、時にはモチとして食べる。この地域でモチゴメを利用し始めたのは、稲作の開始と同時であったものと考へられる。モチゴメが選ばれた理由としては、所謂「稲作以前」の根菜類農耕文化の影響が大きいと思はれる。即ち、これた地域の人々の祖先たちがサトイモやヤマイモなどの粘り気のある食糧を主食としてゐて、イネが伝わって来た時も、それまでの嗜好が引き継がれ、未分化のコメのなかから粘り気のあるモチゴメが選ばれて優勢になって行ったと考へられる。日本人のモチ好きの背景にも、同様の歴史的経緯が隠されてゐるのではないか。

 

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以上のことを踏まえ、改めて便利店や超級市場の食パン売り場を眺めてみよ。どの食パンも「もちもち」とした食感をこれでもかと強調しており、西洋のそれとは極めて異なってゐる。
さう言へば、グミの食感にも何か数千年の食文化的背景が有りさうだぞ。