辛口の話

土佐的産物

「柚子こしょう」てう名前には、奇妙な響きが有る。
「こしょう」と言へば直ちに所謂「塩胡椒」の胡椒を連想するが、「柚子こしょう」に胡椒は入ってゐない。「柚子こしょう」の構成要素は、柚子・青唐がらし・塩・雑柑果汁・アルコール(0.5%以下)・着色料(青1号、黄4号)と書ゐてある。高知の特産物で、去年から今年にかけて愛媛県に潜伏して居た時、その味を初めて体験した。胡椒のやうな粉ではなく、ワサビのやうな練り物である。その時は鍋物のタレに入れたり、刺身の醤油に山葵の代はりに入れて食べたりしたのだ。それはそれは柚子の香り高く、唐がらしの刺激と相俟って新鮮な風味を感じたものだった。
でもややこしひのはその名前だ。「こしょう」と聞けば窓式割合=十中八九(世界シェアに於ける窓式ことウインドウズの占有率を用ひた譬へ)で胡椒のことと思ふだらう。如何? それに唐がらしの「カラシ」てうのがまたややこしひ。一般にカラシと聞けば、我輩は芥子を連想するが、唐がらしと言へば南蛮のことになるのだらう。辛子明太子の辛子は南蛮系のことだが、辛子ミソの場合はどっちだ? 更には、芥子と書いても粒芥子(マイーユであることが望ましひ)も練り芥子も有るし、熱狗ことホットドックの場合は両方有りだな。
キムチに入れる唐辛子はコチュで、コチュジャンのコチュだから赤唐辛子のことだらう。昨夜は世界一辛いメヒコのハバネロのことをやってゐたが、ハラペーニョ同様これらは青唐辛子てうことになるのだらう。このややこしさの元凶は「からい」てうコトバの曖昧さなのかもしれない。塩味のきつい時にも「辛い」てうし、七味を入れすぎた時も「辛い」だ。塩辛い時もヒリヒリ辛い時も、どうして同じ「からい」のだらうか? 「辛くて辛い」と書けばどう読む?「つらくてからい」「からくてつらひ」「つらくてつらひ」「からくてからい」???ややこしや、ヤヤコシヤ・・・
(-_-)
辞書的には「激しく舌を刺激するやうな味。唐がらし・わさび・しょうがなどの味に言ふ。ひりひりする。」てうことになる。古くは塩味の強い場合には「鹹ひ」と書いてゐたやうで、やはり区別されてゐたのだ。「からし」の混同と「こしょう」の混同が同時代に起こったものかだうかは知らん。さういふことを知ってゐやうが知るまひが、「柚子こしょう」も「辛子明太子」も「七味唐辛子」も辛くて旨いものなのだから、かくの如き蘊蓄はだうでもよろしひ。
今夜は汁ビーフンにちょこっと添へてみました。フォーっぽくなりにけり。