呆けたりけるよ

真綿の如し

朝、寝ぼけ眼で庭に出てみると、何やらふわふわしたものがあたり一面浮遊してゐる。
はてな、これは夢か現か、朦朧とした意識で空中に漂へるふわふわを手にしてよく見ると、果たして其れはケサランパサランではなく、蒲の穂の綿毛(穂綿)であった。
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昨天までは一つも呆けてゐなかった蒲の穂だが、我輩の知らぬうちに成熟し、一夜にして呆けて綿毛を飛ばす状態になってゐたのだ。ともかく蒲の生命力は旺盛で、たった深さ15センチほどのプラスチックコンテナの中だけでも縦横に根を張り、何本も何本も穂が立ち上がる。秋になってこのやうに呆けた状態の株の脇には、既に小さな芽が出て葉が立ち上がらうとしてゐる。
もともと近所の田んぼの泥を取ってきて植ゑつけた蒲の一株が、僅か二年のうちにコンテナいっぱいに繁茂したものだが、因幡の白ウサギの話では蒲の穂の花粉(蒲黄)を傷に塗りなさいと教へられるのだが、古代人は勿論此の綿毛も採取し、あらゆるものに利用したことだらう。
いったん呆け始めた蒲の穂を手にとってみると、未だ熟し切ってゐない下の方は少し固くて解れにくいのだけれども、上半分はいとも容易に解れて、まるで重さなど無いやうに、僅かな風でもふわふわと飛んでいって仕舞ふ。
昔の人たちは蒲原にでかけ、解した蒲の穂をたっぷり持ち帰り、竪穴住居の床に敷いたり、革袋に詰めてクッションや枕のやうなものを作ってゐたに違ひない。
我輩も此の際、何か作ってみやう。
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