炉穴用考

内乱の予兆?

知多半島南部、内海谷の沖積地、名鉄内海駅の地表下13m埋没してゐた先苅(まづかり)貝塚は、高山寺式期の貝塚遺跡。放射性炭素の測定結果は、今から約8300年前の遺跡であることを示してゐた。つまり、当時の海水面はそれより更に下であったらうから、現在より15メートルほどの海水準を想定しなくてはならない。
雁合(がんがふ)遺跡出土の土器を見る限り、大川・神宮寺式の押型文土器に始まり、高山寺式期までの間に営まれた遺跡であることから、主体は今から9千年も前の時期であったことを改めて認識しておく必要がある。
その上で炉穴の続き・・・
尖底土器の使用法に関し、以前は地面に穴を掘って立てただのと、まことしやかに言はれてゐたことがあった。
言ふまでもなく、そのやうな使用法は現実的ではないし、尖底の機能そのものが説明されてゐない。しかし、早期に限れば、さまざまな形状の炉穴と尖底土器を組み合はせることに因って、より効率的な土器による煮炊を行ふことが出来たであらうことが推測される。
炉穴のなかでも、所謂煙道付きと呼ばれる形態のもののなかには煙道部の地上部周辺に大小の石が検出された例がある。三重県鴻ノ木遺跡のSF247は其の典型であり、煙道部周辺に大小3〜4個の石が詰められたやうな状態のまま検出されてゐる。
此の場合の煙道部の機能はまさに、「煙道(煙突)」即ち煙や炎の出口としての役割を担ってゐたと理解すべきだらう。煙道部に残された石は火力の制御のため、煙道部の物理的な大きさを調整(塞いだり開けたり)するために用ひられたものだらう。
尖底土器の設置場所は所謂焚き口に相当する部分で、アーチ状に掘削された天井部分にもたせかけるやうに立てられ、其の周辺で火が焚かれてゐたのだらう。実際炉穴の焚き口周辺からは大小様々な石が出土することが多く、それらは尖底土器の固定に利用されたものであらうが、炉穴内部にまで入り込んだ石の中には、調理のため土器の中に投入する熱した石として準備されたものも含まれてゐたことが推定出来る。
勿論、煙道付き炉穴の中には煙道部が比較的大きなものもあり、尖底土器をそのまま差し込んで(石などを噛ませて)竈のやうに利用した例も有るのだらうが、基本的には土器は焚き口周辺で使はれたものであらう。また、このやうに地面が数層に分かれて被熱し赤化するほどの高温を、他の用途に利用しないことは考へられないので、煙道部では燻製などの調理や、焚き口では土器が焼成されてゐた可能性も考へておく必要がある。
とまれ、雁合遺跡で最初に検出された炉穴の如く、平面形状が細長い二等辺三角形になり、煙道部周辺の壁面がほぼ垂直に立ち上がるやうな構造のものは、形状を恰も鞴の羽口のやうにすることによって、空気の取り込みをより強力にすることが目的であったものと思はれる。
少なくとも煙道付き炉穴の場合には、焚かれた火の多様な利用法が可能であったことが推測されるが、煙道部を持たない袋状(スリッパ状)の炉穴はどのやうに利用されてゐたのであらう。此の場合も矢張り、殆どの例が焚き口から燃焼室に向かって床面が下がっていく構造で掘削されており、多くは突き当たり近くがいちばん深い。袋状炉穴の場合、通風口のやうな空気の直線的な動きが望めないので、焚き口側が大きく開く傾向が見られる。
即ち、平面形状は瓢箪又は鏡餅を積み重ねた状態を横から見たやうな、括れた輪郭を見せるものが多く、これはより広い焚き口から空気を取り込むことによって炎の対流を発生させることが目的であったものと考へられる。
このやうな炉穴の使用方法に関しては、現在のところ全て推測の域を出ないワケだが、状況証拠は数多く残されており、それぞれの状況を詳細に検証することによって更なる用途や利用法が推測できる場合もある。
さて、次に集石土坑(集石炉)の使用法だが・・・
(-_-)
                        
                     
                         

雁合遺跡発見の炉穴第1号。
時期決定の手がかりになりさうな遺物も殆ど出土せず、検出当初は何の遺構かよくわからず。
壁面の焼け方からかなりの高熱が予想されたし、余りにも直線的なプランのため、新しい時代の所産であらうと思ってゐた。
「少なくとも縄文ではないな」などと・・・

                     

奥壁部分が一番深くなるものが多いやうだが、此の炉穴の場合は煙道部(奥)に向かって緩やかに登り傾斜をみせる。
                       
                       
                        
今宵、文月満月。皆、満月を愛で、全身全霊で月光を浴びよ!
                 
今月に入って初めて、夜風に涼味を感じたりける。やうやう、秋風の立ちたるを感じるのこと。

(-_-)