再現不可

セニョール・ムーチョも大掘削

激しき寒気団もやうやう東方遙かに去りつつあり、朝起きてすぐ庭に出ても、肌を刺すやうな冷たさは無い。
我が家から現場までは車で30分ほどの道のりだが、年度末のせいか唐突に道路工事が行はれることもしばしば。それに加へ、春休みを利用して自動車学校へ通ふ若者が多いやうで、数校のマイクロバスが生徒をピックアップし乍ら走行して行くので、しばしば停車を余儀なくされる。今朝は道路工事で2回、マイクロバスに2回止められて、余裕を持って出たはずが8時半ジャストに現場到着。
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今天は集石土坑、先日の東西割りトレンチに加へ、中心を南北に貫くトレンチを掘削。
八千年もの間、地中で保存されてきた此の遺構を強制的に目覚めさせた我々だが、調査と称して出来ることと言へば、キレイに検出して写真撮影をし、何本かのトレンチを掘削して断面構造を観察し、平面図と断面図を測量し、被熱礫や各種遺物を取り上げ、完掘し、そしてまた写真撮影し、それでおしまい・・・
現代人だとか言って威張ってゐるけれど、我々の出来ることと言へばこれくらいのもので・・・ トレンチ掘削は言はば開腹手術のやうなもの。勿論、発掘調査は二度と再現することの出来ない一度きりの実験なのだから、そのことを重々承知した上で取り組まなければならないことは言ふまでもあるまい。
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「発掘調査」の名の下に、いったいどのやうなことが行はれてゐるのだらうか。
ただただ掘削し、地中の文物を取り出し、測量(平面 or 立体)し、埋め戻して埋設保存かまたは、破壊し消滅させる。機械的に流れ作業で工程が進むこともあるだらうが、調査担当者の野帖には客観的記述とともに、現場でしか感じ得ないあらゆる情緒や直観さへも記入されてゐなければならない。
時間の地平とともに、時間の断面をも見ることが許された調査担当者は、宇宙の摂理に対するそれなりの責任や義務を背負ってゐることを忘れてはならない。
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午後、日差しは柔らかいやうだが、現場を吹き抜ける風は時折冷たさの欠片を含んだまま。工作活動は遺物の地点上げから調査区セクションの整形にまで達したが、一陣の風とともに知多方面からセニョール・ムーチョが出現。果敢にも鍬を振り回し、中規模トレンチの掘削などをお手伝ひいただく。皆に差し入れまで頂戴し、恐縮至極。数日間、よろしく。<(_ _)>
               
              
 
白色風化石材の大石核もしばしばありますが、希に晩期の貝殻条痕文土器もあるのであります