検出

遺構が山を目指すのは何故?

再挑戦第二部は、円形遺構周辺の再検出から。
重機による表土剥ぎからたった一夜にして早くも、終日終夜吹き続ける木枯らしによって地表は乾ききって仕舞ひ小道具も刺さらぬほど。しかし先週の雨の名残である水溜まりにはしっかりと氷が張って、其の周辺には霜柱が育ってゐる。陽光は惜しげもなく降り注ひでゐるのだよ、それも目に眩しいほど。でも、強風が全てを相殺してゆく・・・
吹き飛ばされさうな気を引き戻し、△ホーで地面を削っていくと、円形土坑プランの突出部が炭化物と焼土を交へて細長く伸びて行く。豈図らむや、円形土坑と切り合ふ別遺構の様相。急ぎプランを確定し、土坑側から掘り進めていくと、焼土面として検出した部分がトンネル状の天井裏側に通じることなどから、炉穴であると確認。急ぎ横割り方向に細長いトレンチを掘削すると果たして、古窯焼成室の如く赤く被熱した天井部分がそのまま残ってゐた。
トンネル部分の埋土は炭化物や被熱したチャートなどを混じてしっかりと詰まっており、掘削していくと各種石材の剥片や遂には石槍や石鏃までもが出土。また、年代決定の有力な手懸かりとなる土器片も数片出土するものの、二次的な被熱に因って手に取る前に崩れ去ってしまふ・・・ しかし、さまざまな状況証拠から、所属時期は縄文時代早期ではないかと思はれるのだ。
炉穴の被熱は側壁から天井部分に限られてゐて、床面への被熱は殆ど見られない。円形土坑と切り合ふ焚き口から奥に向かって、床面は傾斜してゐるが、急激に立ち上がる煙道部は被熱しておらず、煙突が地上に出た地面周辺がかなり被熱して赤変してゐる。取り敢へずトンネルを掘り抜いて仕舞ふと実測前に天井部分崩落の可能性があるため、埋土の中央部分を柱状に残して両側から掘削。結果、其の部分が恰も分焔柱の如き様相となり、一見すると見事に古窯の焚き口と見紛ふほど。
兎に角、此の遺跡は大変な情報を秘めてゐたことが明らかになったのだが、残念乍ら時既に遅く、今天も我々の至近距離をコンマ7の巨大なユンボが往来し、検出面はすぐそこで崖状に切り取られ、風前の灯火。しばし寒さを忘れ、往古の営みに情緒を馳せる。さう、此処で火が焚かれたのは七千年も前のことなのだね、此の痕跡は。
円形土坑に立って炉穴の主軸方向を眺めると、其の遙か先には秀麗な甘南備山の姿が・・・
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