壺中天再生工作

黒い壺の宇宙

何者かに因って素因数分解された壺中天世界の再構築を、粛々と行ふ。
此の危機を好機に転化せしむべく、今回は所謂謎の「黒い壺」を大量に投入し、大特集を組む。恐らく、渥美半島に於ける坪沢古窯址発掘以後、10個もの「黒い壺」が一堂に会することは極めて希なことと思ふ。
坪沢古窯址群は田原の加治の地に存在し、推定総計50基以上にも及ぶ一大古窯遺跡である。此処は、伊勢国朝熊山金剛證寺経塚出土の外容器などに見られる「鍛治御薗」の現地であり、下司三位渡會宗恒の所領であったことが知られてゐる。即ち、伊勢神宮所領の特産物としての性格を、外容器ばかりならず「黒い壺」も担ってゐたてうことになる。
「黒い壺」の大きさは見事に規格化されており、微妙な大小はあるものの、作りから雰囲気まで、驚くほど共通してゐる。同一の窯からの出土であるので当然のことかもしれないが、陶工は複数居ただらうし、そもそも作陶から焼成まで強い意志によって統括された目に見へない規範がなければ、これほどの統一感は生まれないものだ。このやうに規格化された製品群を一見すると、個々の壺に個性が無いやうに思はれがちであるが、さうではない。胴部の微妙な調整痕や口縁部の仕上げの違ひ、焼成時の火表と火裏に見る色合ひの相違や窯のカミの為せる技である自然釉の不均一な発現などなど、細部の表情は千変万化。また、「黒い壺」の多くには肩部に簡易な篦描き記号のやうなものが記されており、中には複数描かれたものもある。また、所謂蓮弁文壺と呼ばれるものの多くも、本体である「黒い壺」の上半部に篦描きを施したものだ。
兎に角、今回は上下二段の展示台を組み、ほぼ中央に水瓶と其の正面に子持ち器台や小型片口椀を配し、四耳短頸壺や生焼けで肌色に発色した広口壺などとともに、なにものか本尊を囲繞するが如く「黒い壺」を配置してみたのだが、其の居並ぶ様は荘厳且つ静謐。恰も大日如来を取り巻く諸仏を拝み見るが如き心持ちになり、神妙なること哉。
勿論、撹乱を免れた泉福寺中世墳墓関連区には、「上」や「井」などの篦描きが施された渥美小型壺や花押の如き篦描きや菊花のやうな印花が施された常滑不識壺破片ばかりならず、墳墓の石組みに用ゐられてゐた白いチャート塊を五輪塔周辺に配して雰囲気を再現した。
また、皿山古窯から大量に発掘された焼成失敗品(俗称:ちゃわんのひっつきもっつき)も特別増量し、それらに濃厚に降り注いだ自然釉の美しさをしっかり観察していただけるやうにしてみたが、願はくば展示ケースの奥行きがあと20センチあったなら、更に立体的で量的な展示ができるのにな〜(-_-)〜、などと叶はぬことを呟き乍ら、碧螺春など飲むもまたをかし。
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官能的な自然釉の滴りと、徳利蜂の作品的超小型壺