貝三昧

貝合はせ

今回の洋行中、貝を食べたのは三回。
アイルランドはゴールウェイのカキ祭り初日で、小振りなカキを5〜6個。イギリスの友人宅で、大きなムール貝をたくさん。そしてパリで、まだまだ小振りなカキとムール貝をそれぞれほどほど。いずれの国でも、魚屋やマルシェの店頭でアサリだのハマグリだのは見かけなかったから、そもそも彼の国沿岸は生息域ではないのかしらむ?
       
貝類は好物なのでよく食べるが、偉人の生息地がそもそも日本有数のアサリの産地てうこともあり、筆頭はアサリだらう。二位以下が量的には極端に少なく、各種ドングリの背比べ。カキ、ハマグリ、大アサリシジミ、カラスガイ(ムール貝)、サザエ、アカニシ、イボニシ、カメノテトコブシなど。
なかでもとりわけ、カメノテの美味しさはハマグリやアサリに肉迫するものがあるし、トコブシなど小さくともアワビと同等以上の味を誇ることは、知るヒトも少ないのだらうな。
アサリは養殖も含めて辛ふじて、其の棲息域を湾内に確保されてゐるものの、汽水域のシジミだのハマグリだのは激減してしまったが、岩礁性のカメノテだのトコブシなどは、外洋性の岩礁に恵まれた此の黄昏岬周辺にはぎょうさん生息してゐる。イボニシも潮の当たる岩陰に、所によってはがさりと掻き取るほど居る。さすがに庭に焚き火して、復元した縄文土器の深鉢で茹で上げるワケではないけれど、ひねた日本酒などあればたいていの貝は酒蒸しに出来るし、網無くとも壷焼や残酷焼きだって工夫次第、如何様にも出来るワケだ。
(-_-)
         
食糧としての貝はさておき、今問題にしてゐるのは装飾品の材料としての貝だ。
主要なものとしてはベンケイガイ・サルボウ・サトウガイ・イタボガキ・オオツタノハなどを挙げることができるが、いずれも食料としての捕獲後に二次的に発生した結果の使用ではなく、はじめから貝輪の材料として採集されたものだらう。
渚に打ち上げられた貝殻は、日常的に採集されてゐたことだらうが、波浪の様相は天候に大きく左右されるので一様ではないし、時と場合によってはまったく見つけることができない期間もある。貝塚や埋葬人骨などに伴って発見される貝輪の量を考慮すれば、材料の常なる確保と貯蓄は必要なことだったものと考へられるから、聖=日知りならぬワタ(海)知りの存在も必要欠くべからざるものだったことだらう。
磨かれた貝の質感は、玉随玉石のそれに似てゐる。表面のさまざまな文様はそれそのもので十分美しいし、同じ物は一つもないてう神秘性に於いても古代人の関心を呼んだことだらう。内面はまた、イタボガキなどであれば真珠層が雲母の如く虹色に光り輝き、人々の注目や興味を容易に集めたであらうし、ベンケイガイなどであれば柔らかなぬめりのある半透明な玉のやうな肌触りや冷たさ、其の質感が人々の原始的な好奇心を呼び覚ましたことだらう。