或る展覧会

マドレーヌ界隈のピナコテーク

マドレーヌ寺院界隈、有名なフォーションの対面にあるピナコテークで開催中の、カイム=スーチンの展覧会に出かける。(フォーションの本店には日本人観光客が殺到し、1Fのブーランジェやパティスリーなども大混乱しておりまする。紅茶やジャムの売店は2Fですよと、わざわざ日本語で大きく書いてあるにもかかわらず、右往左往している情景はちょっと滑稽で哀れでゴザイマスが、かく言ふ我輩もその日本人の一人なのでして。。。)
ロシアから来たユダヤ人画家であるスーチンが、どのやうな生涯を此のフランスで送ったのかはよく知らない。しかし、モンマルトルが輝いていた時代、その例外に漏れず、貧困に喘ぎ苦しみつつも画作を続けた。
ひとつとして水平線や直線の描かれた作品は無い。強烈な色彩がうねり渦巻き、決して美しくなく混淆しあう画面。描かれる人物の顔も虚ろで不安げで、輪郭は消滅して表情も崩壊している。老人のやうなコビトの表情。老婆かそれとも中年女性か? 風景も然り、不安定な地盤に建つ孤独な建築物や、崖に突き出した赤い家。もはやどこまでが樹木で、どこまでが家で、どこまでが崖なのかさへ不明瞭な風景。神殿化した岩山と、地中より湧出する蒸気。また、ゴッホの歪んだ教会を思はせる教会堂も、不安定な丘の上にかろうじて建っている。1930年代以後、死んだやうな濁った色彩が画面を支配し、立体感も消失し、生死さえ不明な動物達が横たわる静物画。そして本人の死。
彼の作品で見知っていたのはほんの数点だけだったが、今回意外にも多作品を一堂で実見する機会を得、かなり衝撃的な感興を得た。彼の作品についてもっと知るべきであり、知られるべきであり、彼の生涯についてもっと知るべきであると感じた。
これは帰国後の課題だ。