夜行越境

夜のドーバー

パリから帰りの航空券。いとも簡単に予約が取れるとタカをくくってゐたのが大間違ひ。この週末はおろか、来週末も満員御礼。何とか空席を見つけたのが24日の便。シーズンでもないはずなのに、なんでこんなに満員なの? 斯くなる上は、ウェイティングリストを利用する覚悟でシャルル・ド・ゴール空港に乗り込むべきか・・・ 予定では此の頃には既に帰国して、新たな工作活動に従事してゐるつもりだったのだが・・・
さて、詳細はパリに戻ってからのキャセイとの交渉次第てうことで、いかがなりますやら今からひやひやのどきどき。
                  
15時40分発のはずのバスがコルチェスターのターミナルに出現したのが16時15分頃。ロンドン行きの乗客は我輩と年配の女性のみ。中にも数人の乗客が居たが、実に閑散としたものだ。
古代から言はれてゐるやうに、「待つバスは来ない」てう格言の正しさが此処でも実証されたワケだが、世界共通の摂理かもしれない。さておき、当初の偉人の予定には無かったコルチェスターでの四日間だったが、干支の一回りの循環を経て、来るべくして来た時期好機の御蔭としか言ふ他は無い。我輩の自説に拠れば、此の宇宙に偶然は無く、森羅万象は必然の結果に存在し、循環し、そして結構する。
再見コルチェスター、再見KOZY et Carol、そしてまた会ふ日まで恙無くあれよ。
       
バスは行く、A12を一路ロンドンを目指し。5時、ロンドンまで26マイルの表示出る。ここはどこか? 右手前方奥になぜかオランダで見るやうな風車が1基。5時25分、あと14マイル。マイルの時間感覚が全く無いので、あといかほどの時間がかかるのか想像できない。
5時半頃から、のろのろ渋滞がはじまる。5時45分、アンダーグラウンドのGANTS HILL、セントラルラインのZONE4だ。5時50分、Red Bridge、6時、Wanstead Park、鉄道のForest Gate, Forest Lane, 6時8分、Stratford図書館 E7、NEWHAM、6時13分、BOW E3。
6時15分、Mile End, ZONE2。6時18分、Stepny Green Station。さうか、CITY 方面かに向かってゐるのだ。行く手のビル群の谷間から、例の妙なガラスのロケットのやうなビルの先端が見へ隠れする。6時25分、Tower Hill。シティーを縦断してからはテムズ川沿ひに走り、Victoria方面へ。対岸に懐かしいロイヤルフェスティバルホール。そして映画版のサンダーバードでしか見たことのない観覧車(ロンドン・アイ?)。偉大で尊大で重厚なヴィクトリア時代の建造物に、妙に現代的なガラス質の建築とデザインが絡み合ふ方法が主流?
ビッグ・ベンウエストミンスター、そしていつものVICTORIA Coach Station、午後6時45分着。既に黄昏を過ぎて、闇の支配する古き都会の片隅。パリの閑散とした雰囲気とは又違ひ、薄汚く暗く、寂しげな街。
           
パリ行きはユーロラインなので、アイルランド行きのときと同じ19番ゲートにチェックイン。荷物もある事だし、例の尋常ならざるチケットプライスなので、市内の移動は諦めて待合の冷たい鉄のベンチでずーっと蹲るやうにひたすら待つ。午後8時25分、乗車開始。今宵の便は国籍さまざまのほぼ満員。平日の夜行はこんなに混むものなのかしらむ。壁に設置されたブローシュアを見る限り、チェコ行きやスペイン行きなどああるが、伝説のインド行きやイスタンブール行きは無くなった? 8時半出発。
午後10時半、ドーバー着。今回は英仏共同の出国審査で、イギリスビザの確認と、フランス入国を兼ねたスタンプ。見たことないデザインで、何度も此の両国を行き来してゐるけど、特にフランス入国でスタンプをもらったのは初めてのこと。本来斯く有るべきなのでせうが・・・ そして全員下車は当然なのだが、大きなバスのトランクを開けてそこにお犬様を放ち、恐らく麻薬所持の検査。同時にパスポート検査終った者も10人くらいづつ並び立ち、お犬様(ビーグル犬)による徘徊検査。小生は友人宅でさんざん愛犬のユキちゃんと戯れたままのジーンズだったのでちょこっと心配したが、さすがプロフェッショナル。同種の臭ひには何ら反応しない訓練が行き届いてゐる様子。ちなみに我輩の隣に座ってゐた男を含めて2名は検査場から戻らず、バスは彼らを残したまま出発。何がいけなかったのかは不明。昔は英国入国時に、インド・パキスタン系の人々や往復チケット持って居ない各国の若者は何人も返されてゐたものだが・・・

午後11時10分、出港。閑散とした船内で、まだポンドの世界。馬鹿高い食事のコーナーやカフェを諦めて、残りのスターリングをこまごまと確認して、土産物のやうなどーでもいいやうなものを一つ二つ。あとは、友人の用意してくれた特製おにぎりやみかんなど食ひ、1時間半の航海をうつらうつらとやり過ごす。
12時40分、カレー着。さうか、時差の関係で忽ち、午前1時40分になりまして候。分母「人生」分のたった「1時間」、何処へ消へた?