大移動日(越境編)

ダブリン港をあとにして

ハノーヴァからのドイツ人カップルは朝8時前に出発して行った。我輩も今朝は早めに起床して、8時半までにホステルのペラペラトースト2枚だけのお食事+バーガーキングで朝食セット(ベーコン&エッグバーガーのセット)追加注入して、長距離移動に備へる。
快晴で気持ちよく、目映ひ朝の光に満ちたダブリンのオコンネル通り光の尖塔周辺を少しく浮遊してから、荷物背負って汽車站へ。チェックインを瞬時に済ませると、10時の出発までは寧ろ間延びしたやうな妙な時間を、多少座り心地の悪いベンチで過ごす。予定通り10時出発。川沿ひに河口方面へ向かひ、港までは工事渋滞と事故渋滞で45分近くかかってしまった。何も無ければ30分以内の距離だ。英国行きは此処での入国審査ではなく、アイルランドの入国審査官がバスに乗り込んできて、パスポートチェックを行ふ、といってもビザの確認や国籍の確認のみで何か記入したりスタンプをくれるわけでもない。今回の客は10名ほど。
11時15分、ステナラインのフェリー出港。ダブリンよ、そして愛すべき島国アイルランドよ、再見。珍しく此処には感傷はさほど無いものの、どことなく寂しさが湧き上がる。船内は来たときの巨大デッキ構造ではなく、ワンフロアー徘徊形式で乗客数に比して客席もさほど余裕が無い。皆さんやはり物凄い勢ひで食事だの飲茶だのなさっておられますので、なかなか座席の確保が難しいワケでして。
離岸後暫くして免税店と両替所がオープンした為、日本円から英国スターリングポンドへの両替を試みるものの、日本円は受け付けませんとのお返事。来た時のポンドの残りも10ポンドほどしかなく、更に倫敦到着が夜の10時と予想される為、民間両替商も窓口を開けてゐるとは限らず、致し方なく手持ちのユーロの中から50ユーロを窓口に差し出すと、30.68ポンドに変換されて手元に来た。なんと手数料が2ポンドもするが、この場合しやうがない。
天気晴朗で波風さへ余り感じないほどの好天。午後1時、英国はウェールズのホリーヘッドに到着。入国審査は英国人団体客(百人以上居るか)の形式的通過儀礼の後に行はれるため、事務所脇で10分以上待機。やうやう招かれると意外なことにいつものデスクを挟んで対面する方法ではなく、先の団体専用の通過ゲートの横で立ったままの若い係員と対面してやり取りを行ふものだった。ありきたりな質問にはじまり、アイルランドではどこに行っただの(これまた余計なお世話)、イギリスではどこに行くだの何だの、こっちも開き直ってゐてちょっと面倒だったので、巴里から香港経由で日本に帰る航空券を突き出してやると、他の係員と眺めて詳しくチェックし、「倫敦と友人宅の訪問以外には英国での予定は無いのだね?」てう再確認的質問を最後に、通過許可が下されたのであった。
しかしだ、前回の通過の為の入国時は6ヶ月有効のビザスタンプを押しておいて、アイルランドも入国時には3ヶ月有効のスタンプをくれておいて、いずれも出る時にはその証拠となる出国日時を記したスタンプを押してくれないので、万一何かで咎められた場合に証明が非常に難しい。加へて今回の英国再入国では、「行ってよし」だけで新たな入国スタンプさへ押してくれないものだから、次に我輩のパスポートを見る係官にとってみれば、1回目の入国日時が今回のものと置換されて解釈される可能性が高いのであって・・・・まーあれこれ言っておっても無事入国できたのでよいではないか。でせう?!
      
好天快晴範囲は広くウェールズ側にも広がっておって、英国に斯くの如き快晴が嘗て存在したことがあったのかしらむと怪しむほどの晴天。さて、このまま調子よくモーターウェイで倫敦に向けて、と思ったとたんに大型車専用の抜き打ち整備チェックポイントに引っかかり、今度は運転手がいろいろ質問攻めにあってゐる。係員も5人ほどが1台のバスに寄ってきて、タイヤの空気圧から車体の整備、タコメーターのチェックから運転手の睡眠休憩時間チェックまで実にイギリスらしくねちねちと細かくチェックしてゐるではないか。おいおい、こっちは不特定な旅客を乗せた定期便なのだぜ、少しは乗客の身になって時間のことを考へておくれてう祈りも空しく、再出発したのは2時25分のことだった。
こればっかりは陽気な運転手も閉口してゐて、ちょっとふてくされたやうな顔でバスに戻ってきて、客に向かって「ソーリー、出発も到着も遅れッちゃったけど、でもこれは僕の責任じゃーないからね」と一言。客も納得する以外には無いワケでして・・・
窓外にはウェールズの美しい田園風景が果てしなく広がってゐて気持ちはいいが、でもね、途中バーミンガムで降りる客が居るので寄らないわけにはいかないだらうし、そのあと倫敦着の予定時間が10時以上遅くなると、そこから更に地下鉄と鉄道に乗り換へて1時間近く行かねば友人宅に辿り着けない我輩にとってはちょっとやきもきしてしまふのであって、ぼんやりと車窓を眺め、追い越していく自動車のメーカーをカウントしてみたりして時間を潰すほかは無いのでありました。唯一の救ひは運転手がBBCラジオ1をかけてゐてくれることで、最新のヒット曲やら80年代の懐かしいロックが次々にかかって耳を楽しませてくれること。
                    

                    
午後5時10分、TELFORDのサービスエリアで休憩。長距離運転手の為には遅れてゐても必要な休憩なワケで、全員下車してカフェ飲んだり手足伸ばしたりタバコ吸ったりイロイロ。5時45分、出発。まだバーミンガムにも達してゐないけど、そろそろ黄昏近し。
                  

                 
6時26分、バーミンガムの汽車站に到着。4名下車。運転手もなかなか気遣ひ有って、予定より40分以上遅れてゐることをよくわかってゐるので、数分で直ちに出発。奇妙にくねった形の気になるビルがあるが、あれは何? 6時34分、再び先ほどのモーターウェイへ。ちゃうど日没。7時半、やうやう標識に倫敦61マイルと出て、嬉しいやら心配やら。
日没後も幸ひ渋滞など一切無く、7時51分、倫敦38マイル。8時35分、ハムステッド近く。そしてあの長い長い下り坂のFinchley Roadに入り、Kilburn、PARKROAD NW8、BAKER STREET W1、GROSVENOR ROAD SW1、9時5分、VICTORIA COACHSTATION着。
               

                   
直ちにアンダーグラウンドでLIVERPOOL STREET STATIONまで出(信じられるかね、初乗りZONE1のチケット4ポンド即ち日本円で1000円也!まったく馬鹿げてゐる!)、鉄道に乗り換へて西北西はエセックスのCOLCHESTERまで(17.50ポンド!!何たる高さ!!!)。IPSWICH行きてうことだけを確認して飛び乗ったので、何駅目がコルチェスターなのかも知らず、車内放送は全く聞き取れず、多少不安なまま1時間ちょっと。幸ひ多数の乗客降りる雰囲気で分かりやすいコルチェスターに到着。駅前から友人宅に電話すると、15分ほどで直ちにお迎へに来てくださり、友人夫妻とは12年ぶりの感動的な再会を果たす。
この再会にはいろいろ極まれる感情や情感や感興があって、まさに言葉では瞬時に伝へられず、3人で抱擁して肩を抱き合ひ、再会を喜び合ふ。
懐かしい思ひ出話に大いに花を咲かせ、深夜まで語り合ふ。
友、遠方にあれども今はまた近し、の感無量。