卑南的

箱庭の中の発掘現場

両隣の客人たちは朝早く、どかどかと慌しく騒がしく、あっと言ふ間に去って行った様子。
日本人は我輩以外にも若いカップルが1組、同じ階にゐたはずだが・・・
我輩も8時頃むくりと起き上がり、1階の服務台へ。おじいさん、旅社の玄関前でラヂヲ体操みたいなことやってゐる。聞けば、小学校の時の国民体操だそうなげな。
朝食は隣で、豆漿こと豆乳と饅頭こと蒸しパン2個で30元。
おじいさんに尋ね、路上に何台か客待ちしてゐるタクシーの中の1台を呼んで貰う。曰く、「この男はきちんとメータ使うし、日本語で返事できるよ」とぞ。他に行く手段が無い目的地故、タクシーやむなし。基本的に此の町はタクシーは値段交渉が主流らしく、メーターを必ず使ふのではないらしい。とりあへず、身支度整へて出発。午前9時。
先づは、西方の山側、即ち昨天降り立った火車站方面へ。順調に町を抜けて20分ほどで卑南文化公園に到着。緑陰でタクシー待たせ、博物館施設へ。
             
周辺は広大なる緑地公園で、此の殆どの部分が卑南文化時代の大集落遺跡であり、復元住居数軒や、発掘現場に屋根を掛けてそのまま展示施設にしたもの、周辺に原生植生を再現した緑地や芝生広場、演技場などを配した総合学習施設だ。
展示館の内容も素晴しく、現地特産のスレートで組まれた石棺墓群の上に建てられた部分は床下にその検出状況をそのまま観察することができる。出土文物のわかりやすい展示方法や、遺跡からわかったさまざまな卑南人の生活風景を、塑像を使って積極的に復元したもの、子供たちに発掘の意味や意義や方法を分かり易く説明するコーナーや、砂箱を用ひた発掘体験コーナーなど、至れり尽くせりで大充実した内容。しかし、これほどの要素を詰め込んだにしては規模はそれほど壮大ではなく(公園は壮大)、要するに中身の問題。
それにしても、此処の遺跡を特徴付ける巨大な立石群(メンヒルの如き)は、環太平洋の巨石文化の一端を感じさせるものがあるが、此の巨石を写した最古の写真が、偉大な先達である鳥居龍蔵博士が1896年に写したものであったのだ。しかも、原住民であるブヌン族の民族衣装を着て、巨石の前で佇む姿の写真は記憶の片隅にあったが、此処で写されたものだったのだ。
彼の他にも、台湾島の考古学的調査の先鞭は全て日本人がつけたものであって、さまざまな原住民(当時は土人)の習俗調査も同時に行ってゐたのだ。これらは文化人類学史的にも非常に貴重な例であって、其の伝統は先日亡くなった国分直一氏や、石垣在住の大濱永亘氏らに引き継がれてゐるのだ。
内蒙古然り、半島部然り、そして此処台湾も亦然り、結局、我輩の行く先の多くは、既に百年近く前に鳥居龍蔵博士が訪ね歩いたところばかりなのだな、などとしみじみ。北は満洲から南は台湾・・・か。
              
展示館にはミュージアムショップや珈琲庁が併設されてゐて、まさに至れり尽くせり。欲しかった小冊子が英語版しか無かったので、其処に居た館員らしき女性に尋ねてみると、ちょと待ってとのこと。暫くして手にいっぱいのパンフレットやCDなど持って現れて、全て下さるとのこと。大感謝。
1時間ほどで見学を済ませ、今度は車で10分ほどの距離にある国立史前文化博物館へ。だうやら卑南文化公園はこっちの付属施設らしく、巨大な本館。此処も内容豊富で、台湾の自然史的背景から始まり、著名な遺跡を例に挙げた詳細な文物紹介。それには必ず塑像展示があって、例へば土器焼成や漁労、石器製作や埋葬場面が再現されてゐる。全体を通して見て、先の文化公園の補助的な機能を鑑みれば、大変好感の持てる施設であったのこと。
さても、時間はいつのまにか昼過ぎであり日差しも一段と強力に。運転手も待ち草臥れて眠ってゐるかと思ひきや、我輩が展示施設から出てくるなり横の緑陰から駆け付けて来て、炎天に停車してある車の中は少し涼しくなってゐる気遣ひ有り。
台東までの帰り道は風景の良いところにあちこち遠回りし、世間話に花を咲かせて楽しく戻る。メーターは720元を示し、釣銭もきちんとくれたことに気を良くした我輩は、100元をチップとして弾んだのであった。
帰宿するとおじいさん出てきて、よかったか?とのお尋ね。内容に大満足した旨伝ふに、タクシーの料金はだうかとのお尋ね。勿論、日本より安いし、運転手も好人物であったよと言ふと、「そうか、それはよかった。もし日本より料金高いこと言ったら、ぶっとばしてやれぃ」とぞ。なかなか頼もしい?お言葉に感謝。
              
さすがに疲れまして、日暮れ近くまでテレビなど見てぼんやりと過ごし、黄昏を待って天后廟あたりへ。屋台をいくつか冷やかして、果物をいくつか。当地特産は釈迦頭で、ねっとり濃厚な味。あとはお決まりの木瓜(パパイヤ)ミルクシェイク。そして飽きもせず、火龍果大玉1個。日本で言ふ所謂月下美人の実なのですね、是は。
さうさう、余談ですが昨天食べた赤い方の火龍果なのですが、ちなみにうんちさまが何事かと思ふほど果肉の色そのまんまのまっかっかになりますので、大変驚くのであります。
「うんちさま」などと言はず、ちゃんと「うんこ」と言ふべきでせうか?
(−_−)
                 
晩安