大移動日

新高山近し

早朝、6時過ぎ。さすがの灼熱も影を潜め、陽の当たりはじめた路上もまだどことなくひんやりとしてゐて、気持ち宜しい。
荷物を整へ6時半頃下の服務台へ降りていくと、既におばあさん座ってゐて、朝食食べて来なさいよとのこと。我輩が隣を指さして、昨天はあそこだったから今朝もまた、と言ふと、あんまり美味しくないから隣はやめておきなさいとのこと。
通りを渡った薬屋の隣がいいよと言はれるままに出掛けてみると、粥も有ると書いてある。何かよくわからんが美味さうな風体の名前を指さして待ってゐると、粥と言ふよりはお茶漬けのやうなみてくれの小椀が来た。普通のご飯の上にいろいろ、何かそぼろのやうなものが数種類盛られ、その上に小さな牡蠣がいくつも盛られ、透明な上湯をかけたやうなもの。食べるだに是が実に美味しく、熱くて熱くてふーふーしきりにし乍らぺろりと食べてしまふ。25元也。
忽ち7時近くになり、慌てて宿に戻りおばあさんにさようなら。おじいさんは?と訊けば、まだきっと寝てるんだよとのこと。それではよろしくとさようならして、歩いて5分ほど先のバス会社の事務所へ向かふ。途中、道の反対側から呼ぶ者有りて、果たして、散歩帰りのおじいさんであった。お互ひ頭を下げて、はいさようなら。
予定ではバス(国光客運)は7時10分開車(出発)だったが、客は我輩以外には男性一人の計2人。期待してゐたやうな豪華観光汽車ではなく、ふつーのミニバスで、行き先は中央山脈稜線近くの天池。
7時15分開車。国道を北上して卑南から鹿野を経て8時15分関山着。此処で10人近く、巨大なキャンプ仕様のリュック背負った大学生たちが乗り込んできて、満席近くなる。此処からは更に北上する花東縦谷公路と分かれて山地方面へ。南部横貫公路と呼ばれてゐるこの道は、此処よりほぼ全線が山中過疎地の少数民族居住地帯を走る。9時15分利稲着。此処はブヌン(即ち卑南)族の村で、標高は500m以上の高原地帯となり、急斜面の方々ではキャベツやピーマンを栽培してゐる様子。これらは台湾では高原野菜なのだね。10時頃椏口着。我が時計の標高計は既に1500m以上の数値を示してゐるが、学生たちは此処で下車。だうやら中央山脈縦走キャンプの入り口になってゐるらしく、周辺にはトレッキング仕様の格好した人々を多く見ゆ。周囲の植生は完全に針葉樹林中心に変化し、山塊はところどころで大崩落し、文字通り千尋の谷に向かって落ち込んでゐる。脆弱な粘板岩や片岩が中心の様子。
10時20分、大関山隧道入り口の展望所に到着。標高2722mの表示有り、一望千里。取り巻きうねる稜線は雄大で、天高く白雲もさほど動かず湧き上がり、空気涼快。スクーターでのツーリングで来る者多いワケだが、こちらのものは125ccあるので結構な坂でも登って来られるのだ。勿論本格的なバイクのツワモノモ多いが、台湾南部の熱帯に在って、革ジャン着込んでの走行はどのやうなものぞ? 此処高原では良いが、低地では安全帽ことヘルメットと相俟って地獄の様相に・・・
10分ほどの休憩ののち、出発。粗野に仕上げられた隧道抜けて、台湾トウヒや台湾熱帯杉の美しい森林帯を快適に下る。11時前、終点の天池着。天池の何処にも天の池など見当たらず、公路開拓記念碑公園の展望台とトイレあるのみ。国光のミニバスは此処から折り返すので、此処で台南から来た興南客運のバスに乗り換へるワケだが、直ぐにやってきたミニバスが10人ほどの年寄りたちを降ろしたので、直ちに出発すると思ひきや、出発は1時50分とのこと。
標高2221mの美しくも全く何も無い道の脇でひたすら、台南行きミニバスの発射を待つ身に辛き置炬燵・・・ その間も引っ切り無しにドライブやツーリングの車両が往来し、この山中にしてはさぞ賑やかしきこと。さうか、今天は日曜日だったのですね。
1時50分少し前、恐らく遠足のやうにやってきた老人組7人と我輩を含む数人の計10名様乗せて開車。台南までは395元。2時25分梅山口、桃源、3時35分宝来温泉郷、甲仙あたりで山地から平地に至り、暑さ戻る。見渡す限りのマンゴー畑で有名な玉井抜けてからは普通の乗り合いバスとなり、ぎうぎうまんいんとなり、午後6時前、台南着。火車站前のロータリーから中山路にちょこっと入ったところで下車すると、目前が安宿の漢宮大飯店であったのでそのままチェックイン。
服務台の伊太利亜夫人風小姐(大姐?)は700元と言ふが、もっと安い部屋を訊ねると600元のがあるてうことで、見もせずにそれに決定。ちょっと長距離移動と標高差と気温差の同時多発集中で疲れてゐたのであります、実は。
まぁチベットに比べりゃー何てこと無いワケなのだがそれはそれとして、とりあへずシャワー浴びて、テレビで『風林火山』など見まして、一段落着いてから夜道の一人歩きに出発。
中山路から民生緑園円環、嘗ての台南州庁舎(大正5年竣工)である国家台湾文学館の威容眺め、隣の台南市消防局(昭和13年)眺め、日曜夜のちょっと疲れた夜市で担仔麺など喰ひ(大変美味!)、台南火車站(昭和11年竣工)駅舎内部を細かく観察後、午後10時頃帰宿。
11時半頃、ドアをノックする者有り、開くと服務台に居たオヤジ。台湾小姐の個人服務は要らんかとのお尋ねであった。さう言へば、此の飯店は高級大飯店と違ひ、何処となく駅前の連れ込み旅館の雰囲気も少し漂へり。しかし、通りの周辺は日本で言ふ予備校がずらりと並んで居て、猥雑な感じは全く無いのだが・・・
テレビでは映画「SAW」。冷房の温度調整はなかなか大胆で、どんどん冷ゑるばかりなので、致し方なく予備の布団などに包まって眠る。
     
晩安