先嶋風光

原色の世界

それにしても何故、フェリー内部はこのやうに強力に冷やされてゐるのか?
毛布1枚でも寒いほどで、長袖のジャージを持ってきてよかったなとつくづく。美しい風景を見やうと、甲板に出た瞬間メガネは曇りまくり、カメラなど大結露であるし、着てゐる服までしとっとしてしまって困ったものだ。
午前4時過ぎ、宮古島着。下船する旅客と入れ替はりで、数人の若者が乗船してくる。一方貨物が多く、せわしくクレーンやリフトが動き回り、巨大なコンテナを次々に下ろしてゐる。あの中にはいったい何が入ってゐるのだらう。
明け始めたひむがしをしばし眺め、今しばらく眠りに就く。
10時半頃より方々に島影が出現し、11時過ぎに石垣島着。新しくなったフェリー埠頭は離党桟橋より少し遠くなって、周囲は発展途上でがらんとした感じ。商店の1軒も無い。
下船する客たちに混ざって上陸。許された時間は僅か1時間半弱である為、目論んでゐた友人ご両親経営のペンションなどには到底行けず、昔の一度きりの記憶を頼りに街中の南嶋民芸資料館へ。お昼休みでお店も閉まり、電話してみると資料館は開けてくださるとのこと。しばらくすると奥様走り来て、昔の文物に溢れた民家を利用した資料館へ。嘗て見たパナリ焼きも未だ厳然とケースの中に鎮座ましまして、記憶の片隅を擽られる。思へば前回は干支の一回り前のこと。ご主人には昨年東京でも会ひそびれたので、今回ぜひお会ひしたかったがならず、残念。
そうかうするうちに忽ち時間は残り30分となり、慌てて港方面へ引き返す。途中公設市場あたりでおばあ手作りの弁当と、みっちゃんのサーターアンダギー1袋買ふもまた愉し。
ターミナル手前で有村の服務所見つけ、ふと気になってチケット確認の為立ち寄ると、那覇港で抜かれたクーポンは台湾基隆から沖縄への帰りのチケットであったやうで、危ふく二重購入の難を逃れる。
1時半、再度乗船と同時に、中央ホールで出国手続き開始。以前は確かターミナルで行っていたのではないか? 
午後2時、出航。水蒸気多く見通しはさほど良くないが、嗚呼あれが竹富島、あああちらは古見岳かと、ふらりゆらりと揺籃の如く船は行く。
出航後、ビールの自販機が1台追加され、免税価格で1缶150円。普段ビールなどほとんど飲まないくせに、1缶買って飲んでみたり。ところで、オリオンビールぢゃなくってキリンなのは何故?
7時半過ぎに日没。水平線の遥か彼方、細い細い二日月の直ぐ脇に煌々と光り輝くのは金星か。その情景は恰もイスラムの旗の如し。
日没後、服務台でパーサーの男性としばし雑談する。12年前に此の船が新造船だった時に少しお話した同一人物であると確信。台北故宮博物院副館長の蔡さんも、留学生時代に時々利用され、よく知ってゐますとのこと。
残った客は、西洋人2人と日本人5人ほど、あとは台湾人。
静かな静かな航海。船は一路南を目指す。