日々是巡礼

壺屋風情

SAINT JACQES...LA MECQUE. (邦題『サン・ジャックへの道』)at 桜坂劇場
女性監督コリーヌ・セローの作品。フランス映画にしては気軽に楽しめるコメディだが、彼らの自覚するところである所謂仏蘭西人気質なるものも、何人かのキャラクターに分散した上でしっかり表現されてゐる。冒頭から LA POSTES の流れを借りて極めて効果的に登場人物へのフォーカスが絞られるが、三兄弟の余りにも偏屈で奇妙な性格も仏蘭西人なればさもありなむ、妙に納得してしまふのだから可笑しい。兎に角、喋りだしたら誰も止めることの出来ぬ饒舌さと我侭さと、お節介や無関心、それで居て妙に淋しがりやの国民性を一番よく知ってゐるのは誰なのか知らんが、これらの特徴が全て、一人の人物に凝縮されてしまふことさへしばしばあったな。
サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路は、大自然の厳しさと美しさが並存する魅力的な道だ。3人の兄弟を含む9人のメンバーのなかに、メッカに至る巡礼路だと思ひ込んで参加したラムジィが健気で哀れだが、我輩も耶蘇云々は抜きにして、一度歩いてみたいものだ。
                    
星の巡礼 (角川文庫)
             
那覇市壷屋界隈、焼き物の醸し出す独特な静けさの支配する坂の町。
先づは南窯(ふぇーぬかま)へ。小さな連房式登り窯が辛ふじて保存されてゐる。先日の台風のせいなのか、既に以前からだったのかは知らんが、蒲鉾型のアーチ天井の何箇所かが崩落してしまっており、特に保存処理もされてゐない様子。此の町にして此の窯有りきてうほど貴重な窯であり、早急にまう少し本気で保存処理をして欲しいものだ。
さういへば、やちむん通りは以前からこんな石畳だっけ? 十年前の路上の記憶は無いが、全体に落ち着いた風情になってゐる。但し、白っぽい石のお陰で陽光の照り返しも強い。ふぇーぬかまから一路東ぬ窯(あがりぬかま)へ。こちらは現在も窯元の私有地内てうことで立ち入りはお控ゑ下さい、はいさ。石灰岩の石積み壁と赤い瓦屋根が按配良く古びて、蔦の根が更に時代を演出して風情を出してゐる。あとは坂の中腹を巡る、すーじぐわーを散策してゐると、再び桜坂界隈に出る。
国際通りから至近の距離であり、賑やかな平和通りから1本入っただけのところだが、此のあたりは大変静かで野良猫さへ上品な毛並みのものが多い? 
それにしても、注目すべきは開館2周年を迎へるてう桜坂劇場の活動だ。ミニシアターとしてさまざまな芸術映画や文学映画をプログラムに並べており、そうそうたるもの。ちなみに来週は、デオ・アンゲロプロスの『旅芸人の記録』と、侯孝賢の『非情城市』。それと、大きい方のホールでは室内楽や各種ミニコンサートも行はれてゐるやうで、新井英一、EPO、OKINAWA JAZZ GUILD ORCHESTRA などの名前が並んでゐる。1Fにはカフェとアートショップ、2FにはCDレコード屋もあって、メジャーなステージで採り上げられる機会の殆ど無い有象無象を補ってゐるやうだ。
桜坂からは小径を通って希望ヶ丘公園に至ることが出来るが、其処では年老いたホームレスが何人も生活してゐて、なかなか痛々しい光景に直面する。今日会ったおじーは公園すぐ脇のバラックに住んで空き缶など集めて暮らしてゐるさうだが、家の横に生えてゐた巨木(樹種不明)が去年枯死し、シロアリが入ったことなどで巨大な枝が落下し、ブリキの屋根が押し潰されたまま大変不自由してゐるとのこと。公園の敷地と隣接してゐるものの、あくまでも公園内ではないので、市は何もしてくれないさーと諦め顔で、誰かがチェーンソーで切ってくれたはよいが、屋根に乗ったままの巨木を撤去する術は無く、諦めてゐる様子。此のおじーはブリキにせよ何にせよ、屋根の有る家の形をしたものの下に暮らすが故にホームレスではないのだらうが、樹下路上で余生を送る者たちも顔見知りのやうで、我輩にはその半分もわからんうちなーぐちでなんやかんやと話しておったさー。ちゃうど手に持ってゐた冷ゑたさんぴんちゃ*1を差し上げると、すまなささうにして飲んでおられましたとさ。
           
一方木賃宿の方は、昨天から今朝にかけて随分客が出て行ったやうで、服務台を任されてゐる東京出身の兄ちゃんが一人で、あっちもこっちも同時に忙しく掃除などで走り回ってゐる。蚕棚の方も18区画のうち空きが8区画も出て、しかしよく見ると残った占領地の中の5人様ほどはかなり長期で暮らしてゐる様子。昼間もごろごろしてゐる2人以外は朝何処かに出かけて行くやうなので、アルバイトでもしてゐるのだらう。などと、ふと屋上にあがってみると、シャワー室の奥にいくつかの部屋を増設中のやうで数人の若者が作業をしてゐたが、その中の一人は我輩の階下に出入りする者なので、さうか、此処で働いておったのですねきみは。此の木賃宿では、移住組や長期滞在者の為にいくつかのアルバイトを斡旋してゐるやうだったが、それらの張り紙の中に、「ゲストハウスの改築・増築の手伝いをしてみませんか。半日のお手伝ひでドミトリー1泊分がタダ。その上弁当支給!!」などと書いたものがあったが、この仕事のことだらう。ちなみにドミトリーの1泊は1500円で、近くの商店街で売られてゐるお弁当は300円であった。賃金相応に物価も本来安いのだらうが、観光客向けには内地価格だ。
その他、現在数人の韓国人が宿泊中らしく、服務員のお姉さんが英語で対応してゐる声も聞こゑてくる。個室のいくつかには、小さな子供を連れた家族も泊まって(住んで?)ゐる。いつのまにか此の地の安宿を中心とした文化は、独特な色合ひで成長を続けてゐるやうだ。
                
 

*1:いわゆるジャスミン茶のこと。茉莉花茶=モゥリーファーチャーのことを別名「香片茶」とも呼ぶが、このシャンピェンチャーが訛ってさんぴんちゃになったとする説が有力。