ウタギまたはガマのことなど

胎内回帰

種之子御嶽(さにぬしーうたき):全長5キロにも及ぶてう巨大な自然洞穴である玉泉洞窟に隣接するガマの内部に在る。
自然公園内に含まれるが、訪れる観光客はいない。ガマの内部および其処に至る途中にも、至る所に御嶽または拝所が存在し、香炉が置かれてゐる状況などから現在も機能してゐるやうである。大規模な御嶽はガマの中心の岩陰にあって、ガマの底からは見上げるやうな位置に設けられてゐる。参道は急な傾斜路で、石積みの狭い門を潜ると内部は更に囲ひがあり、三箇所に羨門のやうな門が設けられてゐる。夫々に香炉が置かれてあり、囲ひ込みの内部は洞窟状の空間であり、風葬場であると思はれる。
実際、この大きな御嶽の他にも、岩壁とその裾の窪み(岩陰)を利用した囲ひ込みの風葬墓も存在し、近年まで累々と利用されてきた痕跡がある。囲ひ込みの前に並べられた甕には人骨が入れられ、其の周辺には無数の白骨が散乱してゐる。此れは亀甲墓における閉じた空間に再現された池の部分と、厨子甕=骨壷=蔵骨器の並べられた部分の原型をよく表してゐる。
このやうな囲ひ込み式の風葬墓の他にも、岩壁前面(岩陰)を石積みの壁で塞ぎ、閉鎖空間を設けた上で其の前面に香炉を設置し、拝所を設けた御嶽もある。
観光客向けのパンフレットでは、ガマの底まで達した巨大なガジュマルの樹根や気根、洞窟の奥底の闇に向かって流れ込む川や、男根状の巨大な鍾乳石(此の存在から俗称は「珍珍洞」であり、種之子の由来でもあるか?)などを見て回るやうに紹介されてゐるが、ガマの内部に沈殿した霊気は相当なものであり、好奇心だけや軽い気持ちで訪れるべき所ではない。
ガマの底から樹木の枝葉越しに見上げる地上は眩ひが、陽光に満ちた地上とは明らかに違ふ死者の世界がガマであり、地元の人でも用も無く訪れることは嫌はれてゐる。ガマの内部は地上よりは気温が低いものの、湿度は90%以上、日常ではあまり経験することの無い湿った冷気(霊気)が肌に纏はりつき、拭っても拭っても拭ひきれない粘質の何物かを感じる。
また同時に、ガマの内部は胎内であり、生命回帰の揺籃。魂魄の還り行く場所であり、祈りを彼の世に届ける場所でもある。
ガマに抱かれしヒトの生は、幸ひであるか。ガマに内包されしヒトの死は、幸ひであるか。