真夜中あたり

人生の儚き光芒

昨夜は何時頃眠ってしまったのか、まったく不明のままの夜明け。そして目覚め。
時計を見ると既に午前9時前であって、点けておいたはずのテレビが消されてゐて、をかしなことがあるものだと首をかしげ乍らも点灯。おや、部屋の電気は点けっぱなしだった。
(−_−)?
羽田氏の死去に因って「題名のない音楽会」の司会が奇怪な風貌の宮川某に代わってゐたが、さういへば彼は教育テレビで人形たちとピアノを弾いてゐた同一人物だと気付く。ひょろりと痩せた体躯でさらさらの直毛のおかっぱ、さう、昔音楽室で見たフランツ・リスト肖像画に似てゐるのだな。今天の主題は大規模吹奏楽団だったが、彼の指揮ぶりがくねくねと腰振り手さばきこれまた奇妙で、しかし全身で音楽の喜びを表現してゐて、本当に楽しさうで好感が持てた。また彼の手になる楽曲も、大規模なカーニバルの序曲のやうで底抜けに明るく、しかもオブリガードやアンサンブルの作り込みが高密度にして精緻。親父譲り?なのか教育の賜物なのかは知らんが、並々ならぬ才能の持ち主であることは確かだ。
服部良一ファミリーも然り、此の宮川某も、作曲家の世襲てうか才能の遺伝は、日本の場合時々有るのだね。海外では大バッハの大家族は例外として、作曲の才能が子や孫に引き継がれた場合など有るのかしらむ? 指揮者や演奏家は時々聞くから、作曲家だって居ても不思議はないのだらうね。
          
結局ほぼ終日雨降りで、時に激しく時に小糠雨。
                
午後になって矢張り教育テレビで、「思ひ出の名演奏ーゲルギエフマリインスキー劇場管弦楽団ー」を熱心に見る。1995年の日本公演の様子だが、第1曲目、ワーグナー「舞台神聖祭典劇“パルシファル”から 第1幕への前奏曲」は素晴らしかった。静謐を音にて表現せよ、てう命題を具体化したやうな曲だが、静謐さと神聖さを抑制された感情表現で演奏に反映させた名演だった。
第2曲のラヴェル作曲「“ダフニスとクロエ” 組曲第2番」は、恐らくフランス人が聴いたら怒るだらうなー、と思はせる演奏。なにせ主旋律の伸ばし方が過剰で大袈裟だし、ピリオド奏法奨励キャンペーン中ではあってもビブラートが深すぎてちょっと違和感を覚ゑることもしばしば。矢張り、キラキラした水面の細波の如きパッセージの上を滑るやうに流れて行く主旋律は、まう少しあっさり行った方がよいのかもしれません。グリークの「朝」日の如く爽やかに。さすがに、ダイナミックレンジが極めて広い管弦楽団なので、後半のテンポアップした部分からは迫力ありました。
そして第3曲目はチャイコフスキー作曲「交響曲 第6番 ロ短調 作品74 “悲愴”」。指揮棒を使はない指揮表現は顔の表情と相俟って複雑で、テンポも何もかも自在に先導していく様子は見事。不安定な5拍子のワルツも、第3楽章の嘆きの銅鑼も、そして消へ入るやうに終はる終楽章も、ライブ感溢れてゐて宜しう御座ゐました。第3楽章のあとの拍手を恐れてゐた自分は恥じるべきでしたが、フィナーレの沈黙はまう少し其の余韻を楽しんでゐたかった、さう思ったのは我輩一人なのでせうねきっと。
(−_−)
                
其後は本を読んでみたり、小雨に乗じて庭で不要な段ボール燃してみたり、持ち帰ったまま未開封な荷物の箱を開けてみたり、布団を夏物に取り替へてみたり、蕎麦を茹でてみたり、深夜まで寧所に暇在らず。「新絲綢之路」見たり(遺跡の紹介部分はかなり減って、政治的民族的主題に変はってしまったのですね)、そいでもってETV特集「疾走する帝王 マイルス・デイビス 菊地成孔のジャズ講座」は実に渋い番組でした。マイルスのプロフィールやディスコグラフィーを中心に、50年代から91年の死に至るまでの経歴と系譜を明らかにする大胆さ。彼の変貌と変容の歴史が、モダンジャス確立の歴史そのものであったことがよくわかった。孤独でブルーで夜のイメージ、そして其処に象徴された世界観。ジャズからフュージョンへのクロスオーバーと、内面的な深まり。ジャズと言ふ表現方法を用ひて世界に放出された真空宇宙の情緒。マイルス・デイビスてう人間を借りて地球上に散布された孤独の素粒子は、新たな表現方法を模索するさまざまなジャズプレイヤーに因って音として放出され、エーテルの如く地上を満たし、大地に浸透して行く。クラシックやオーケストラでは表現し得ない領域なのだが、このやうな情緒を内包したジャズに相当するものは、古代や中世には存在しなかったのだらうか?
(−_−)
             
                         
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