閑居風情

いと涼しげなるは水草の花哉

静かな静かな、静かな朝。
久しぶりに自宅での静かな目覚め。昨夜消し忘れたテレビ画面から、既にお昼近いことを知る。消音モードなのでテレビからの音は無く、時折小鳥の囀りや、玄関の網戸から入ってくる風の音。其の風が、庭の柿の木の若葉を揺らす音。其の新緑の陰影と、硝子戸の向かうの枝の揺らめき。
さて、先づどの音楽を聴かうか。
(−_−)
空に雲は多いものの、時折強い日差し。庭に設置して5年になる大きな雨水受けの樽で飼ってゐた金魚は、先日の大雨によって何処かに流れて行ってしまった様子。よく見ると1匹だけ、黒メダカが生き残ってゐて、花の咲き始めた水藻の間を遊泳してゐる。小さなタニシは増殖し、これまた水藻の方々にゐて若芽を食む。ぢっと見てゐると、そんな水草のまにまに、ヤゴの姿を見つけた。メダカの敵は、大雨だけではなかったのだな。
横の小さな蹲ひにはバウフラ虫が湧ゐて、しきりに水面と水底を往復してゐたが、こっちの方にメダカを移してやらうかしらむなどと思ってゐると、来客の気配。ここ十数年の居住において、恐らく数度しか会ったことのない婆さんだ。挨拶もそこそこ、手にした紙を示し、自治会の何たらがだうたらかうたら。
婆さん悪いが我輩は世間の人とて、此処の自治会なるものには加入しておらんのだよ、などと申せば今更の如く驚き、さうかそれは知らなんだ、ところでお前さんは何する者ぞと。この手の会話は既に数限りなく交はしたこととて、関心有るやうで実はさほど関心の無い人々には今更改めて説明する必要性も感ぜず、適当に誤魔化して締めておく。
(−_−)
風林火山」と「新絲綢之路」など見、深夜に至りやうやう出発。
爆走トラックの隙間に紛れ、国道1号線を西へ。今夜は最後まで下道で、などと考へてゐたが、此の先数カ所で舗装工事中の看板を見るにつけ、途中から高速道路へ。小雨の降り始めた深夜の大都会に突入し、無事招待所に至るは午前2時過ぎのこと。
駐車場の正面にただ1面、先週まで草むらだった区画には水が張られ田植ゑが行はれ、水面は小雨にけぶり、脇の街灯の橙色を滲ませるやうに映し出してゐた。
蛙の大合唱は、今が盛りのやうであった。