ワープ走行

神秘的な堤防道路

かつて何度も洪水を引き起こした中級河川。
その堤防道路を毎朝毎晩、自行車で横断せねばならないのだが、これがまた難しいのだ。信号のある交差点まで遠いこともあって、唐突なところに設置された横断歩道で待ってゐても、車は一向に停まってくれない。
走りやすい道路のやうなので、どの車も相当の速度を出してゐるし、微妙なカーブの終わった辺りに横断歩道が有るので、自動車のドライバーにしてみれば急には停まれない状況でもある様子。
しかし朝方は近くの高校生も何人か、辛抱強く待ってゐるし、夕方には仕事帰りのOLやお年寄りも此処を渡らむと、ひたすら待ってゐる姿を見る。勿論いくら我輩のやうな偉人でも優先的に渡ることの出来るワケではなく、ひたすらひたすら待つのだが、今朝は遂に5分を越ゑてサラサラと左右に流れ行く自動車の途切れるをひたすら眺めるに至れり。
かういふ時間は通勤時間でもなく瞑想時間でもなく、何か時間と空間の廻間に入り込んでしまって、時間も停止して空間も弛緩し切ってしまったやうな、何かとっても不可思議な感触に囚はれてしまったやうな状態になってしまい、自分が何処から来て此処は何処でそして何処へ向かって行くのかてうことさへだうでもよいことに感じられてしまって、実に奇妙だ。
堤防道路は陸のやうで陸でなく、水辺のやうでも水面には遠く、水中でも地上でも地中でもない境界線上に敷設された虚構の世界の中心軸のやうだ。
逢ふ魔ケ時の堤防道路、其処は最早、此の世でもあの世でもない亜空間なのかもしれない。
     
     
スペースワープ 5000