森の神秘

神秘的で妖艶な万両の立ち姿

さる情報筋より、近くの山中で環状列石発見の一報入り、早速お山へ。
お山はお山でも、先日登頂を果たしたランドマーク的な霊山ではなく、今そこにある山。我が陋屋から自行車で10分ほどの山脈は、嘗て偉人に因って臥龍山脈と名付けられたものであり、うねうねだらだらと東西に1kmほど連なってゐる。見たところピークは4箇所ほどあって、それぞれの高さはせいぜい50mほどだらう。通報に因ればその西端頂部に神秘的な環状列石があったてうことなので、とりあへず脇の谷から鞍部を目指す。
戦後一時は殆どの樹木が伐採されたやうだが、半世紀を経て照葉樹林が極相に達し、薄暗い森となってゐる。ふと気付くと、樹林周囲には蔦や葛に混ざって方々に万両が自生してゐて、青々とした葉の傘の下にたくさんの赤い実を付けてゐる。時折千両や、小さくて細長い橙色の電球を灯したやうな実をつけたクチナシの灌木も混ざるが、ウバメガシやカクレミノ、ツバキやサカキの森の奥底に秘められた美しい光景だ。
時折茨に足を取られつつも、ほんの30分ほどで斜面を登りきり、鞍部稜線上に到達。雨の予感を孕んだまったりとした暖かな天気てうこともあり、額が汗ばむほどだ。時折飛び立つ鳥類の羽音に驚き乍ら、問題のピークへ。
ナルホド、確かに、秩父古生層に由来するチャート質の岩盤が露出して直線上に並んでゐるし、其の先は2〜3mほどの岩塊が緩やかに頂上を取り囲むやうに並んだ部分もあって、正直ドキリとする状況。しかし、周辺を良く観察すると、恰も切り石の如き平坦面を持つ列石も岩石の摂理に由来する自然のものであり、頂部に露出した大岩塊にも磐座の持つ独特な神秘性は感じられない。神籬と見做すにも材料が足らず、現場で得た直観からは残念乍ら「人為的なものではない」と判断せり。
     
     
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しかしやはり、森の本質は「目」、即ち視線だと改めて。
薄暗く見通しの利かない極相林と、人為の介在する明るい雑木林とでは様相が違うだらうが、森の中をあてなく彷徨ふ時のあの息苦しさ。爽やかさとは裏腹に、自分を取り囲む全ての方向から、木立の隙間から自分に向けられた視線に由来する、恐ろしさ。時にもののけの気配や、木霊のざわめき。それが即ち森の偉大さであり、森に対する畏怖を発現させる根源なのだ。
このやうな「視線」は森以外で感じることなどつひぞ無かった我輩であるが、唯一の例外はカイラーサだ。森のそれとは全く異質な強烈な視線。それこそ、聖なるものの本質なのだらうね。
     
Oak Village 森のサムライ・ナイフ