意識の性質に関する諸説の要約(代表的な8つの説)

やうやう風止み、青空戻の戻りたりける

  1. 物質の属性としての意識:我々が内観において感じる一連の主観的な状態は、系統発生的な進化の過程をずっと遡り、相互に作用する物質の基本的な属性にまで辿る事が出来る。共現性(経験するものと経験されるものとの間の関係) 抱握(宇宙を構成する物質や精神の相互の関係)
  2. 原形質の属性としての意識:意識とは物質自体に帰せられるものではないが、あらゆる生命体の基本的な属性であるてう解釈。
  3. 学習としての意識:意識が生まれたのは物質とともにではなく、動物の誕生とともにでもなく、生命が或る程度進化した特定の時点であったとする説。意識とは感覚や観念などの要素が占める実際の空間であるてう考へ方は誤りであり、諸要素間の連合こそ学習であり、心であるとする説は誤りであり、進化の過程に於いて学習の起源と意識の起源とはまったく別問題である。
  4. 形而上の付与物としての意識:上記の諸説は、意識が単純な自然淘汰に因って生物学的に進化して来たことを前提としてゐるが、この前提の妥当性を否定する説。即ち、意識、換言すれば観念や原理、信条が我々の生活や行為に与へる大きな影響が、本当に動物の行動から起こりうるのかどうか。いたずらに類似性にこだわると、そもそも隔たりが有った事実そのものを忘れがちになる。意識を形而上の付与物として説明しやうとするのは自然科学の法則の枠を踏み外すことのやうに思はれたが、意識を自然科学の枠組みでのみ捉へやうとすること自体が問題であった。
  5. 無力な傍観者論:意識は何ら活動しておらず、実際何もする事はできないとする説。厳密な進化論と矛盾しない為には、このやうに意識を一段と低く見るしかないと考へた結果、編み出された。厳密な自然淘汰に寄り添った立場で、唯物論に傾く考え方。
  6. 創発的進化:形而上の付与説の核心に在って、実際に観察されている進化の不連続性を、科学的に説明するもので、意識を無力な傍観者てう不名誉な立場から救い出すものとして殊更歓迎された。
  7. 行動主義:意識は存在しないものとし、意識に実態など無いてうその意味を意識しやうとするもの。
  8. 網様体賦活系としての意識:意識を宿す脳の部位を特定し、その構造上の進化を辿りさへすれば、意識の起源に関する問題は解決出来るとする説。即ち、人体構造そのもののうちに答えを見出さうとするもの。現在その有力候補に挙がってゐるのは脳幹に在り乍らも長く見出されることのなかった「網様体」である。網様体は脊髄の上端から脳幹を経由して視床視床下部へと繋がり、そこへ感覚神経と運動神経の則枝が集まって来てゐる。

          
ジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙』- 意識の誕生と文明の興亡 - ( The Origin of Consciousness in the Breakdown of the Bicameral Mind : Julian Jaynes 1976,1990 )より
       
        
         
脳は空より広いか―「私」という現象を考える