吐魯番文書の怪

滅び行くものどもよ

中国製のTシャツ。
昔と比べればうんと品質は向上して来たものの、まだまだなものも多い。一昔前などは、たった一度の洗濯で胴回りが半分にまで縮み、コビト用の大きさになってしまって着られなくなるものや、首回りが胴回りと同じ径くらいまでよれよれの伸び伸びの伸びりっしもになってしまうものなどもぎょうさん有ったものだ。余りの極端な変化に戸惑ふのは買った本人ばかりで、ひょっとしたらこれは最新鋭の宇宙素材で出来てゐるのではないかしらむと、宇宙人の介入を怪しんだほどだ。
今回の踏査では、香港、大理、吐魯番などでTシャツを買ってみたのだが、香港の女人街などで売られてゐるものは生地も設計も良く、実用に耐ゑ得るものばかりだった。麗江では、世界遺産登録以後の爆発的旅游客増加に伴ひ、土産物全般の質がかなり上昇し、民族色を必要以上に強調した派手なものから伝統技や伝統柄を応用した気の利いたオシャレなものまでが渾然一体として売られてゐる状況。Tシャツも其の例に漏れず、あらゆるカテゴリーのものがあった。
いちばん気に入ってゐたのが、新彊は吐魯番の交河故城入り口の売店で売られてゐたもの。胸の中央にベゼクリク石窟出土のウイグル文摩尼経文がプリントされてゐるもの。経文の下には漢字とアラビア文字で「中国 吐魯番」と控ゑめに書かれてあって、落ち着いた色合ひも設計もよかったのだが、3度目の洗濯で早くもその欠陥が発現した。
見れば経文部分のプリントはゴム質?の圧着のやうで、その縁辺が既にTシャツ本体から剥離しつつある。文書の本体も皺が著しくよれよれのしわしわとなり、今後の数回の洗濯の後には実際の古文書の如く断片化して消滅してしまうに違ひ無い。文書部分が全て剥離してしまへば、妙な位置にインクで印刷された小さな文字だけの実に間抜けなTシャツになってしまうに相違無い。これは由々しき事態である、と書いたものの、20元の外れ籤を引いたと思へばよいのであって、さほどたいしたことでもない。
これもまた御愛嬌てうことで・・・
   

ドイツ将来のトルファン漢語文書

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