福助は見てゐた

何見てござる?

家を留守にすることが多い。
もとより鍵などかける風習の無い家だが、数ヶ月の留守の果てに自宅に戻ると、明らかに何者かが玄関に入った気配を感じることがある。まさか残留思念を感知したワケでもあるまいが、さりとて奥の間まで上がり込んで何かを物色した様子も無い。
宅配便の配達員なら不在通知だの何らかの物的痕跡を残すはずだし、不在を知らずに訪れた知人ならメッセージが有るだらう。宗教の勧誘なら印刷物か何かが残されてゐるだらうし、盗人なら何処かしら引き捌いた跡があるはずだ。
全てを知ってゐるのは、上がりの間に鎮座してゐた神妙な顔の福助だけてうことだ。