仁丹綺譚

九段の母会館

雨にて候。屋外工作活動は当然中止され、その余波で明天の稼働が決定されたのであった・・・
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さて、厠所用特殊巻き紙を購入せむと巨大ドラッグストアに出掛けたのだが、レジ脇で仁丹を発見し、購入。かれこれ20年近く、仁丹など見かけたこともなかったのでその存在すら忘れかけてゐたのだが、携帯用の紙パックのものも四角な瓶に入ったものもまだ健在の様子。
今は昔、生家の近所に、起きてゐる間中ず〜っと仁丹を飲んでゐる(噛んでゐる?舐めてゐる?)妙な爺さんが居て、仁爺(じんじゐ)と呼ばれてゐた。仁爺の恐るべき技は、我輩も含めた近所のコドモを見かけるやいなや、ポケットに隠し持ってゐた仁丹を電光石火の早さで口中に放り込み、がじがじと奥歯で噛み砕き、その生薬由来*1の独特な臭いをふぉ〜っと吹きかけてコドモを弱体化させて喜ぶてうものだ。我輩も何度も何度もその仁丹攻撃を受けてゐたため或る種のトラウマとなり、成人しても長らくは仁丹などを服用することなど無かったのだが、何度目かの中国旅行中に短期間道中を共にした香港人の劉先生に”日本製”の仁丹を貰ひ、ジャンピングバスの悪心を乗り切ったことをきっかけに、時々服用したりしてゐたのだ。
彼(劉先生)に因ると、言ふまでもなく仁丹の発祥と本場は中国大陸の奉天あたりだが、原材料に用ひる生薬の品質は日本製が一番であるが故、旅游時にはいつもこの日本製仁丹を携帯してゐるのだてう。
確かに、大陸でも何度か仁丹なる妙薬の売られてゐる様子を見たこともあり、実際に購入してみたこともあったが、それらは銀色粒の多少いびつな面妖変竹林な代物だった。仙丹・金丹・萬金丹の例を引くまでもなく、「丹」とは文字通り丹=水銀朱のことであり中国では丸薬の意味であるものの、ちょっと待てよ・・・
その由来譚が怪訝なる珍説であるとの直感は的中し、正式なる由来譚は森下仁丹の網上主頁に詳しく記されてゐた。

そもそも「仁丹」というネーミングも中国大陸への輸出を念頭に、東洋道徳の根本であり、「仁儀礼智信」の五常首字であり、儒教の中心で、最高の徳で、中国では文字の王とされる「仁」に、台湾でヒントを得た丸薬に使われていた「丹」の文字を組み合わせ、漢学者の藤沢南岳や朝日新聞論説委員だった西村天囚のアドバイスで「じんたん」という読みを振ったものである。のちに、中国大陸での仁丹販売に成功した森下博は「これでようやく恩返しができた」と周囲に語ったという。

森下仁丹歴史博物館 http://www.jintan.co.jp/museum/index.html

何も劉先生は我輩に嘘を付いたワケではなく、日本人の発明したる仁丹が余りにもそれらしき故、当の中国人でさへ経年変化で中国製造の産品と信じ込んでしまってゐたワケだ。もっとも中華人の特徴として、「この世に存在する素晴らしきものは全て中国発明品に決まってゐる」てう妄信癖が有るやうで、未だに「北国の春」だの「花」だのは中国のオリジナル曲だと6億人くらいが信じてゐるくらいだ。*2
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さう言へば梅仁丹だの何だの、変わった味の仁丹も有ったっけ・・・

薬の品質―本草書からGMPまで

*1:甘草、阿仙薬、桂皮、和桂皮、茴香、生姜、丁字、縮砂、益智、木香、薄荷脳など

*2:偉人自らの踏査に因って判明した事実である