700円分の何か

劇的な雲間

いつまでたっても歯医者通ひが終はらない。
招待所と工作所から近いだけが取り得の歯科医院、夜7時半の予約時間にでかけてみると、小さな待合室には6人も客が座ってゐるではないか。たまたま初診の割り込みが入ったのか、夕方から治療が長引き押してゐるのかは知らねども、6人もゐたのでは何時に順番が回って来るのかわからん。そもそも我輩の割り込む隙間も殆ど無かったのだが、いつものやうにけだるい受付嬢に診察券だけ提出し、「も少しあとに来ます」と告げて一旦招待所に戻る。腹が減ったし、冷蔵庫にはいろいろ喰ひ物も有るが、そこは我慢の子。しかし、今夜の治療で恐ろしい麻酔注射を打たれる可能性を考へると、治療前に手当たり次第むしゃむしゃと喰っておく方がよいのかもしれないな、などといろいろ想像逡巡したが、再度の歯磨きも麻煩のため、テレビなど見てふよふよと20分ほどを潰し再び医院へ。それでもまだ2人も待ち人有りきが、諦めて待ちたりければ、10分ほどで呼び出しを喰らふ。此の時点で午後8時を回ってゐた。
待ち合ひは2人でも、治療室には4座席有って全て患者が座ってゐるてうことは、まだ7人や8人が医院内部で待たされてゐるてうことだ。案の定、一番奥の席に導かれたのはよいがなかなか先生が回って来ない。正面の出窓からは満月がよく見えて、ああ、大口開いての治療風景、喉の奥まで月に見られ、青白い月光浴び乍ら口の中に指を入れられるのだなあと妙にしみじみ。
治療自体は断続的に15分ほどかかったが、医者も助手もせわしく各座席を動き回る。やり直しの仮歯がやうやう収まるべき所に収まり、しゅーしゅーとエアーがしきりにかけられ、生温いうがい用水で3回もうがいして終はり。照明灯のアームにブル下げられた邪悪な顔をしたぬいぐるみが、最後までこっちを見てゐた。レーザーはあてなかったが、お会計は700円也。来週はなぜか月曜ではなく、火曜日に回される。なんでさ?
(−_−)?
歯医者から戻ると、部屋の壁に吊るしてゐたカレンダーが落ち、棚の上のフィギュアたちが床に散らばってゐた。小さいものどもだが、モアイとエイリアンと便秘の神様と長頭人とエジプトの書記座像とゲスラとボーグキューブが渾然一体となってゐる様子は、それこそ宇宙の混沌を見る思ひであった土佐。

満月をまって