再見再会

雄大偉大鴟尾燦然

早朝7時の食堂。
昨夜は若者集団×1だと思ってゐたが、大食堂のテーブルにはいくつもグループ名の札が立てられてゐて、合宿か何かは知らんが結局5個集団が宿泊してゐたことを知る。道理でいつまでも五月蠅かったはずだ。
飲み放題食べ放題のオレンジジュース&コーヒー&ロールパンに、コロッケ+ミニサラダの1皿が付いて630円。高いけど朝から食料探す手間を省くため、朝食だけは頼んでおいたのだ。こと朝食に関しては人並みの3倍近く食べる我輩にとっては、いくらロールパンが仰山並んでゐても、付随するマーガリン、ジャム・コンポート類、ヨーグルト又はチーズ類の欠如又は不揃ひは、何となく物足りなさを感じさせる原因だ。あれこれ言っても仕方ないので、集団に埋もれてありったけの提供物をむしゃむしゃと喰って、そくさと町に下る。
早朝8時の南円堂。
掃き清められた石畳に光る打ち水に朝日が反射して、御堂の頂部の宝珠を映す。石段を下り、猿沢の池へ。土手の木々や紅葉を従へ、鏡面の如き水面に映る五重塔。いつか絵はがきで見た風景だ。奈良町界隈を数分歩み、目的の旅館へ。北京から来日中の老師一家や、世話人である出版工作員らと再会を果たす。時間を惜しみ、総勢7名で下町路地裏散策探索に出立すれども、老師の興味は全方位に向かひ、無限に写真撮り、即座にスケッチし、瞬時に取材を開始する。我輩の脳髄もまだ中国語モードに切り替はっていないこともあり、老師から繰り出される連続質問に十分応答出来ず、もどかしき思ひする。巨大な猿ぼぼ吊り下げられた奈良町資料館に至り、ボランティア通訳の王先生到着し、ほっとする。初対面なれど各自自己紹介する間もなく、無限に繰り出す老師の質問にも実に堂々繊細詳細簡潔てきぱきと対応され、旅団全員お互ひの名前を紹介しあったのは小一時間を経た後のことであった。王先生は台湾出身で奈良在住。献身的にボランティア通訳で活躍する、線の太い女性である。南方系の風貌から福建あたりのご出身かと思ったが、近からずとも遠からず。
其ノ後は一同団子状態にて、古刹古跡路地街市経巡り乍ら、興福寺から東大寺、二月堂周辺を歩き巡る。夕方前のまほろばの展望は、二月堂の舞台に登った者の特権であり、人民の竈より立ち上る煙や汽車の排気ガス、復元中の平城京大極殿覆ひ屋から立ちはだかる生駒山の雄姿まで、全ては大仏殿の黄金色の鴟尾の彼方に展開する。
楽しき時間は忽ち過ぎ、黄昏時に老師一向に別れを告げて、我輩は帰路に。下次は明年北京での再会を希望して、古都での別れを惜しみつつも再見。行楽帰りの人々で混雑する近鉄特急、何度か乗り換へ、暖かな座席でうつらうつらし乍らも、半ば夢に、半ば現に。
招待所に帰り着く頃には、対面の黒々しき川面は街灯の白き光を映して一層寒々しく光り煌めき、冬の到来を思ひ知るには十分哉。放射冷却で明天の寒さや如何。
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魅惑の仏像 阿修羅―奈良・興福寺 (めだかの本)

少女の如き阿修羅王よ、我が生涯4度目の再会なりき