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欲望の翼

演劇界のことはよくわからないので、我輩が知らないだけのことなのだらうが、英国の俳優にとってのシェイクスピアは何らかの形で必ず通らなければならない南大門のやうな存在なのだらうか? 日本の俳優にとって、このシェイクスピアに匹敵するやうな存在は無いのか有るのか・・・ 近松ってーのも何か違ふやうに感じるし…
これまた予備知識も殆どゼロで観たこともあるが、まさかアル・パチーノユダヤ商人シャイロックを演じるとは予想外のこと。それも並の入れ込み様ではなく、異常なまでの傾倒没頭没入の形相で異形を演じてゐる。ああ、これが嘗て「ゴッドファーザー」や「狼たちの午後」で見たカミソリの如き痩せ男の果ての姿か、などとしみじみ思ふ秋の宵。
一方、堅気と正義の商人アントニオーニを演じたジェレミー・アイアンズは、さしたる外連味も不気味さも無く、先の「永遠のマリア・カラス」や「キングダム・オブ・ヘブン」の如き濃厚な存在感も無く、準主役を淡々と演じるのみだったが、よく考へるとシェークスピア劇ではかういふ在り方のほうが可成り難しいのかもしれない。でも、バッサーニオとのホモセクシャルっぽい関係を臭はせる演出は、ジェレミーだからこそ?
さて、問題はバッサーニオを演じたジョセフ・ファインズの存在だ。この男の出るどの作品を観ても、どれ一つとして素晴らしさや感動やエスプリを感じたことは無い。そもそも貧相でちんまりと真ん中に集まったサル顔だし、英国人の若手俳優にしては科白の滑舌も悪いし、何せ良いところが殆ど無い。そもそも「恋におちたシェークスピア」でブレークした理由も不明だし、今回の「演劇じみた」演技が「エリザベス」の時とどのやうに違ふのかと問はれても、戸惑ふほどの演技力なのだ。余程、30代半ばの英国人男優は人材不足なのに違ひ無い。
次にお姫様たるポーシャ嬢には、メリケン女優のリン・コリンズ。その中世美人的風貌や口調に、ふと「ハムレット」のオフィーリアを連想してしまったのだが、改めて調べてみると、NYはジュリアード・スクール卒業後、パブリック・シアターでオフィーリアを演じ絶賛されたとある。舞台と映画てう相違は大きいだらうが、同じシェークスピア劇てうことで何か舞台で学んだ雰囲気を引きずってゐるのかもしれない。ちょっと26歳には見へない落ち着き振りで、ちょっと癖の有る斜に構へ方で、まあまあ好感が持てました。
その他脇役には、倫敦生まれだが印度・伊朗・英国の血統を受け継ぎ、泰国と馬来西亜で育ったてうズレイカ・ロビンソン、「ラブ・アクチュアリー」で見かけた印象的な顔(ギョロ目豚鼻系)のクリス・マーシャル、チャーリー・コックス、ヘザー・ゴールデンハーシュや、名脇役アラン・コーデュナーなどが出演。ロケはゴンドラに乗ってふよふよと運河を往来してゐたあたりはホントにベニスであったのかなかったのか、監督は印度人マイケル・ラドフォードだが、彼の作品である「1984」も「白い炎の女」も「イル・ポシティーノ」も「ブルー・イグアナの夜」も「10ミニッツ・オールダー/イデアの森」もどれも観ていないが、「エリザベス」をパキスタン人のシェカール・カプールが監督したパターンをちょっと連想いたしました。

Der Kaufmann von Venedig / The Merchant of Venice

Der Kaufmann von Venedig / The Merchant of Venice

新月は何処ぞや、ラマダンの明けたりける哉。