王道楽土

ひっつき虫、待機中!

終日雨。秋雨の彼方に、晩秋の色。
(-_-)
備忘録:ニャック・ポアン(12世紀後半)
仏教との王ジャヤヴァルマン7世は、貯水池ジャヤ・タターカを建設した。その規模は3.5×1kmで、ニャック・ポアン遺跡は中央の小島にある。ニャック・ポアンは大小5つの正方形の池からなり、一辺70mの中央大池各辺に、一辺27mの小池が付随し、大池と小池のあいだにはそれぞれ祠が有り、正面は小池の側に向けられてゐる。四つの祠にはそれぞれ首だけの石像が設置されており、北に象、西に獅子(シンハ)、南に牛、東にヒトが配置されてゐるが、それぞれの石像の口の部分から、背後の大池から導かれた水が流れ出す仕組みになっており、各小池に流れ出すやうになってゐる。大池の中央には七成円壇上に観世音菩薩を祀った塔堂が築かれており、基壇の周囲を二匹の大蛇ナーガが絡み合ひ乍ら、東側に鎌首を持ち上げてゐる。ニャック・ポアンとは、絡み合ふ蛇の意味。
生き物の首をした大池からの流出口と中央塔の構造は、仏教の世界観に基づくものと思はれる。仏典の記述に因れば、宇宙の中心である須弥山を取り巻く大海に人間の住むジャンブ州(印度亜大陸)が逆三角形の小島の如く浮かんでおり、その北側には白い雪を頂く山脈(ヒマラヤ)が広がり、その麓に「無熱悩池」(西チベットの聖山カイラス山:カン・リンポチェ(6656m)の麓に横たはるマナサロワール湖:マパム・ユムツォ(4588m)を暗示する)てう名の人々の病を癒す不思議な池が有り、四方から四本の大河(ガンジス、インダス、オクサス、シーター)が流れ出してゐる。玄奘三蔵の「大唐西域記」には、「無熱悩池」の四方にはそれぞれ、北は馬、西は象、南は牛、東は獅子と記述されてゐる。また、仏蘭西人考古学者セデスに因れば、中央大池は病を癒す不思議な力を湛へるてう伝説の湖アナヴァタープタを形取ったものとのこと。
具体的な幾何学的物理的理数構造を持った宇宙観と、地上に於ける宇宙の立体的再現。それは王だけが為し得る事業であり、地上に宇宙を再現し、絶対的かつ普遍的な天文の秩序を地上にもたらすことこそ、王の使命なのだ。