死せるナーガ

蛇よ、ナーガよ!蘇生せよ!

日曜の朝遅く、玄関先がガタガタと騒がしい。
東方に逃走する颱風の強力な吸引力に因って、この時期にしては珍しいほどの強風が北西より吹き付け、昨夜半から夏仕様で開け放たれた陋屋の方々を揺らしてゐたが、そんな風の音とは明らかに違ふ。そのただならぬ気配に、寝惚け眼で蚊帳から這ひ出し、玄関に赴けば、そこには目映ひ陽光に照らされた蛇の死体。
その脇には立ち竦む斑猫の姿があったが、忽ち逃げて行った。時折庭で見かける小さな野良猫だが、蛇を捕らへて此処まで持って来たのだらう。
無惨にも喰ひ千切られた蛇の胴体は、まだゆらゆらと動いてゐるし、頭部も弱々しげに口を開閉し、舌を揺らしてゐる。しかし、風前の灯火とはこのことだらう。強靱な蛇の生命力をしても、野良猫の執拗な攻撃には適はなかったのだ。
朝一番の玄関で、引き裂かれた蛇との遭遇。その黒幕は斑の野良猫・・・この状況を風水的に解釈すると、なかなか興味深い結論が導き出されるのだが、実体の無い電脳的電子文字に書き留めることは止めておくことにする。
(-_-)
そんな快晴の午後、バイクで海岸道路を走る。強風に運ばれた波飛沫が、時折ヘルメットのシールドにかかり、気が付くとサイドミラーが塩で曇る。時折吹き付ける突風に、何度か足を掬はれる。さすがに対向するライダーの服装も、快晴だがTシャツ姿は無く、革ジャンも見かける。
そんな季節になったのだね。

蛇 (講談社学術文庫)