静夜諸思

梨皮手

秋分。既に日暮れの早み、雲の波間に儚く消ゆ。夕闇に虫の声、殊更高し。
葡萄の次は、梨。そのざらりとした皮の手触りと、瑞々しき果肉の甘みよ。
宵闇に漂ふ、白粉花の妖艶な香り。青白き月光を受け、天空にまで漂へり。
人々の言葉の裏に潜む、様々な思惑。自らの存在理由は、何処に在るのか。
過去の偉大な書物を繙かば、迸り出づる無限の知恵。その全てを享受せよ。
星の光を見よ。星の名を知る者は、幸ひである。天文を、地上に敷衍せよ。
君知るや、南の国を。そして今、君見ずや、黄河の水の天上より来たるを。

山月記・李陵―他九篇 (ワイド版岩波文庫)