青海遙か

黄金色の西方浄土

上海から青海省省都である西寧までは、その距離2401km、火車で丸二日の距離だ。
上海を出発した火車は蘇州・南京から徐州、開封河南省鄭州、洛陽、陜西省都西安から甘粛省都蘭州へ。そこからは新彊維吾爾自治区方面に向かふ河西回廊ルートとは分かれて西へ、省都としては余りにも東に偏りすぎてゐる西寧に至るワケだ。西寧から格爾木*1までは更に814km、普通旅客火車で1泊二日かかるのだ。
今回のNHK「新絲綢之路」で取り上げられてゐた青海之路は、勿論通った事は無い。西寧には過去2度出掛けてゐるが、一度目は青海湖*2鳥島)及び塩湖や西寧郊外の旧跡*3日月山周辺の諸遺跡*4巡礼が目的だった。二度目は格爾木経由で西藏を目指してのことだったが、何故か外国人の入境が許されず撃沈。唇を虚しふして西寧・格爾木間を火車で往復したのだった。
西寧から格爾木に向かふ鉄路は青海湖北岸を周回し、紫達木(ツァイダム)盆地を南北に縦断してゐるが、青海之路は南岸を巡り、塩湖を経て盆地東端の都蘭を経て、西行して格爾木に至ったワケだ。勿論現在でも火車を利用せずに格爾木入りをすることは可能だらうが、都蘭郊外の熱水大墓だけはこの目で見ておきたいものだ。
山脈の山裾をそのまま利用し、大規模に盛り土をして台形に仕上げられてゐるやうだが、その規模は高さ30m、一辺が160mであるとのこと。驚くべき規模であるが、俯瞰された画像に見る石組み石室は、平面「亜」字形を呈してゐるやうだった。だう見てもこの形状は西方由来のジッグラトを連想させるし、大墓であるが同時に「壇」だ。方形壇と多重円壇の遭遇は大陸東北または中原の地であるかもしれないが、山海経の記述をも思はせる熱水大墓の存在は、とりわけ重要だ。
さて、格爾木よ。面白味も何もない人工都市。しかし交通の要衝。北に向かへば阿爾金山峠を経て甘粛省敦煌へ。南に向かへば崑崙山から唐古拉山を経て西藏・拉薩へ。そして今は往来の途絶へつつある西に向かふ道が、青海之路。地図上には甚だ心細い1本の線が引かれており、途中いくつかの町の名前が記載されてはいるものの、見るだに難路であり、番組の映像に見るが如し。
いずれにせよ、考古学的好奇心や旅心を大いに擽る映像の連続であった。

雲表の国―チベット踏査行 (小学館ライブラリー) 中国秘境 青海 崑崙―伝説と祭を訪ねて (museo)

*1:ゴルムド

*2:ココノール又はツォ・ンゴンボとも呼ぶ

*3:塔爾寺(クンブム):西藏省以外では最大規模の西藏式大寺院)で、現在のダライ・ラマ14世や先代のパンチェン・ラマ10世など、多くの大活仏が此処で学ぶ。我輩もこの寺に日参し鳥葬を目撃し、門前街で西藏式大衣を購入せり

*4:唐の文成公主由縁的日月亭は標高3520mの峠にある