2005-08-15 逝く夏の歌 並木の梢が深く息を吸つて、 空は高く高く、それを見てゐた。 日の照る砂地に落ちてゐた硝子を、 歩み来た旅人は周章てて見付けた。山の端は、澄んで澄んで、 金魚や娘の口の中を清くする。 飛んでくるあの飛行機には、 昨日私が昆虫の涙を塗つておいた。風はリボンを空に送り、 私は嘗て陥落した海のことを その浪のことを語らうと思ふ。騎兵聯隊や上肢の運動や、 下級官吏の赤靴のことや、 山沿ひの道を乗手もなく行く 自転車のことを語らうと思ふ。