香辛料の魔力

魅惑の香辛料たち

今天は雷雨一過の快晴凱風にて、星期礼拝天即ち日曜日らしく、カレー粉を調合せり。浅岡スパイスのカレー粉セットは先月上京の折に密かに仕入れておいたもので、6年前にパキスタン人朋友が不法滞在にて国外退去処置になるまでは、チャミンダ君ではなくクマール君から印度式カレー粉を仕入れてゐたので、十二分に間に合ってゐたのだ。近年は無印などでも強力ガラムマサラを売ってゐたり、大型超級市場では各種香辛料を取り揃へてはゐるものの、それらを個々に買ひ揃へてゐてはカレーを喰ふ前に財布が危うくなってしまう。それではもともこも無いので、大多数の御家庭では市販のカレールー利用に甘んじることとなるのだ。
とにかく、浅岡の手造りカレー粉セットの特徴は、鬱金コリアンダー・クミン・フェネグリーク・赤唐辛子・ディル・肉桂・胡椒・八角・陳皮・サボリ・カルダモン・生姜・丁字・ナツメグ茴香・月桂樹・三香子・セージ・甘草の20種の香辛料粉が分包されており、自分で調合する仕組みなのだ。偉人の手順は、深めのフライパンで鬱金粉をほどよく乾煎りし、濃厚な橙色になるまで加熱しつつ、コリアンダーや肉桂、赤唐辛子などを徐々に加へ、超弱火にて撹拌しつつ5分ほど煎る。ほんのり水蒸気とも煙とも知れぬものが混合された粉の表面から立ち上る頃には火をば止め、粗熱を取ってから缶に入れて保存。直ぐ使へばクマール君伝来の味に酷似し、週間単位で寝かせて熟成すれば、味わい更に深まる。
我輩の場合は基本的には直接小麦粉は使はぬものの、市販のカレールーを一欠片用うる場合多く、飴色に炒めた玉葱やカリッと表皮を焦がした鶏肉を煮込む場合には大変相性が宜しい。勿論玉葱の代はりにセロリや菠薐草を用ひるも亦彼の地の味を彷彿とさせ、なかなか宜し。
今回の調合時、クミンの小袋を開いたとたん、瞬時にして中国新彊やネパール、パキスタンで過ごした日々が蘇へりにける。香りの不可思議なる作用能力はこの時空をいとも容易に超越せしむる効果であり、音楽に似たり。また、これらの香辛料群は即ち各々薬効を持ちたる生薬にて、薬研こそ用ひねども漢方薬の調合と等し。
(-_-)陋屋内に異国情緒の大いに漂ふ也