王国の興亡

病める薔薇?

リドリー・スコットは果敢だな。斯くも重厚な主題をこの時代に問ふてうことは、なかなか勇気の要ることだ。
KINGDOM OF HEAVEN
今なほ中世どころか、古代の価値観と摂理に因って蠕動してゐるエルサレムのこと、何をどのやうに取り扱ってもいずれかの側に立たざるを得ない、戦ひに満ち、重層する宗教の聖地。十字軍の生み出された歴史的背景や退廃した現実、混沌とした都市の状況がよく現されてゐた。ここには偶像としてのオーランド・ブルームは無く、リーアム・ニーソンジェレミー・アイアンズデヴィッド・シューリスなどの英国系俳優たちの深い懐にしっかりと守られつつも、高潔な英雄の孤独をその表情に良く湛へてゐた(今回は耳は尖っていない)。圧巻はシリア人俳優のハッサン・マスード。アラブの魂を体現した演技や存在感に感服。我輩は耶蘇者でもモスレムでもないが、今なほ中世の雰囲気や構造を残したエルサレムランドスケープ再現に、かの国の異教徒たちは涙するのだらうね。でも、死せる癩王の鉄仮面が取られた時、出現した顔が思はず「ハンニバル」のゲイリー・オールドマン演じる男色の富豪メイスン・ヴァージャーの顔に見えたのは、故あってのこと? (どうやらエドワード・ノートンだったやうだ)それと、今更乍ら「ロード・オブ・ザ・リング」や「始皇帝暗殺」の戦闘シーンを見てしまった後にも拘はらず、十字軍とアラブ軍の対峙する戦闘風景は凄まじき迫力だった。但し、投石機によって放擲される火炎玉や、弩弓から雨霰と放たれる矢の速度が高速すぎる嫌いは大いに御座ゐましたけどね・・・ 今回は監督お得意の光と闇のシーンは少なかったが、陽光の下の画像のメリハリは貫禄を遺憾なく発揮。CGの多用に関してはどこまで監督の意向が反映されてゐるのか、不明。
それにしてもちょっと褒め過ぎ?(-_-)?

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