マスカレード

階段さへも舞台である

巴里にはいろいろな思ひ出が付着し過ぎてゐて、それにまつはることにつひては未だ冷静に語ることの出来ない偉人であるが、オペラ座もその例外ではない。オペラ・ガルニエ座の伝説を題材にした物語は何度も映画化され、語り継がれて来た。しかし近年では、「オペラ座の怪人」と云へばアンドリュー・ロイド=ウェーバー作曲のミュージカル版のことを差すのだね。
倫敦の westend でこのミュージカルを見たのは1987の暮れのことだから、初演から2年近く経ってロングランの予感を孕みつつ展開を始めてゐた頃だ。気紛れで、レスター広場近くの当日券売り場に並んで「有る?」と聞いてみたら、「2枚有るよ」てう返事。まう1枚はすぐ後ろに並んでゐたスイス人の女の子が買ったけど、お互いの席はかなり離れてゐて終演後は会へなかった。今からあれこれ考へてみると、当時作曲家の夫人はサラ・ブライトマンだったワケで、ひょっとしてクリスティーヌ役は彼女だったのかしらむ?! 勿論当時は金銭的余裕など殆ど無かったので、手元にはプログラムも資料も何も残っていないが、劇場内の様子や物語は強烈に脳裏に焼き付ひてゐる。実際に巴里のオペラ・ガルニエ座内部に入ったのは翌年のこと。。。
冒頭の荒れ果てたオペラ座内部で行われるオークションシーンに始まり、大シャンデリアが天上に引き上げられると同時に舞台上が華開く演出の素晴らしさは、映画的に引き継がれてゐた。それは恰も「タイタニック」の回想シーンを思ひ出させるもので、目を見張ってゐるうちに物語りに引き込まれてしまう。舞台版のラストは1870年代のまま終はるが、映画では冒頭即ち1919年の現実に引き戻される。フラッシュバックは映画の得意技だから、両者を単純に比べるワケにはいかないが、ちょっと老ひを強調しすぎかなと思った。それと、一番驚いたのは大階段でのマスカレードシーン。最初はてっきりオペラ・ガルニエ座のエントランスから続く中央階段 le Grand Escalier でロケを行ったのだと思ったが、記憶の中のエスカリエと違う。でもとてもセットとは思はれなかったが、調べてみたらセットだった。驚嘆せり。
怪人役のジェラルド・バトラーは「トレインスポッティング」「トゥームレイダー2」以来だが、スコットランド人らしい?不器用な演技。クリスティーヌ役のエミー・ロッサム嬢は「ミスティック・リバー」&「デイ・アフター・トゥモロー」で見かけてゐたけど、ホンモノのオペラ歌手とは知りませんでした。ラウル役のパトリック・ウィルソンは未知な人。その他脇役はイギリス系役者いっぱいで、とってもご満足。ジョエル・シューマッカー(即ちシューマッハ)監督はバットマンな人で、「フォーン・ブース」はとってもトホホな駄作だったけど、今回は面目躍如かな。
それにしてもウェーバー氏、凄いね。「ジーザス・クライスト=スーパースター」('71)の時は23才だって。「エビータ」('78)、「キャッツ」('81)、「スターライト・エクスプレス」('84)、「サンセット・ブルバード」('93)、e.t.c. 1992年には"Sir"称号授かって、1997年には一代貴族の爵位"Lord"授受ですって。
兎にも角にも、とっても濃厚な2時間35分でした。
データ:358席の大劇場、平日の第1回目上映、観客約50名、うち女性45名、カップル2組、老夫婦1組。ちなみに映画製作的裏方的には先日の「アレクサンダー」と繋がってゐるし、あっちはあっちで内容的に「トロイ」と繋がってゐたし、この円環どこまで行くのやら。今日の内容自体、映画とは回想繋がりで御座ゐました。ついでに、昨天の話とはお姫様繋がり?(*=*)/?
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