ヲコゼムシの恐怖

これは残念ながら余所の柿です

中庭と裏庭にそれぞれ1本ずつ柿の木があるが、種類が違うのだ。中庭の古木は富有柿で、裏庭の方は筆柿のやうだ。
柿の木には恐ろしいトラウマが有るのだが、その原因がヲコゼムシである。小さくて黄緑色でイガイガとしており、見るだに邪悪な風貌である。体から無数に生えたトゲの様子が魚のヲコゼを連想させるから付いた名前のやうだが、そのトゲに少しでも触れたとたんに恐ろしい激しい痛みが発生するのであって、強力な毒を持ってゐるのだ。その痛さはあたかもカツオノエボシクラゲの触手に触れたときの痛みや、タコダラブッヘモドキに刺された時の痛みや、ノストロモ号に潜入したエイリアンに噛まれたりその強酸性体液を浴びた時の痛みに匹敵するほどなのだ。体長わずか数センチの虫だが、恐ろしい毒である。
この恐怖のヲコゼ虫に初めて刺されたのは30年以上前のこと、やはり庭の柿の木に大量発生している状況を確認したので、彼らの蝟集する枝葉をそ〜っと手で避けてその下を潜ろうとした瞬間、用心する余り緊張して枝を震わせてしまい、落ちてきたヲコゼ虫が1匹こともあらうに着てゐたトレーナーのうなじ側から背中に入ってしまった悲劇が事の発端=トラウマの発生だ。その時の痛みは推して知るべし、背中の中心が帯状に大いに腫れ上がり、痛みはちくちくちくちくといつまでも続いたのであった。そんなことから、柿の木の下に来れば衣服を改め、些細な枝先まで目を凝らしてしっかり注意する習慣が身に付いたワケだ。ところが昨年は、比較的少数発生したヲコゼムシを薬剤で殺戮していい気になっていた時、玄関の引き戸周辺にまで這いだして来てゐた数匹に気が付かず、ちょこっと指先に触れてしまったのであった。瞬時に指先に電気が走り、水で冷やしても過酸化水素水で消毒しやうとも、湿布貼らうともオロナイン軟膏塗らうとも、浅井膏薬でもタコの吸い出しでも効かず、心頭滅却しても痛いモノは痛いのであって、1週間以上痛みを抱えて過ごすはめになったのだ。今年こそはやられまいぞ、でも薬剤散布を怠ったためにやはり発生してゐるやうだし、おまけにカキノヘタキリムシ大発生が重なり、青い実が次々に落下してしまひ、つひに今に残るは2個のみてう有様であった。
一方裏庭の方は虫も病気も発生していないやうで、枝もたわわに実ってゐる。でも安心放心は禁物である。恐ろしいヲコゼムシはどこに潜んでゐるか知れたものではないのだ。この秋は台風やら大雨やら地震やら何やら、理由はよくわからないが、何かとってもいろいろ要注意であると感じるのだ。例えばそれが、隣の客であらうとも、柿食う客なら用心せねばなるまいぞなるまいぞ。
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