壺中天

したたりける

雨、降り止まず。それにしてもよく降ること・・・
今日は雨そぼ降る山中に、いにしへの壺見にでかける。いくつもの壺に込められた願ひや祈り。そんな目に見へぬものごころは、果たしていつ何処に、誰に届けられたのだらうか。
閉じた世界には無限の広がりが閉じこめられてゐて、そこに遊ぶ者は仙郷に居る心境になるのだらう。桃源郷は人知れぬ山里にあって、そこに行くには狭く神秘的な隧道や暗がり峠を潜らねばならないのだ。
この壺も、かつては田野に眠る土塊だった。人の手で掘り出され、練られ、寝かされ、形捻り出され、乾かされ、灰汁を掛けられ、火に焼かれてきたのだ。山より切り出された木々の薪は炭となり灰となり、真っ赤に熱された壺の方々に吹き付いて、更なる熱を得て溶解し、おもてを流れ覆う。冷ゑた灰汁はいつしか深緑色の瑠璃となり翡翠となり、壺の表情と景色に深みをもたらす。
さて我輩は、どんな瑠璃色の壺に隠れやうか。