昭和式

手回し式ポンプが普通でした

昭和が流行ってゐるらしい。唱和ではなく、昭和時代のことだ。九州の或る町では、取り残された商店街の復活作戦としてさまざまな案が検討された結果、まだ身近な昭和をキーワードにしてまちづくりを進めて行ったら大成功した例があったり、コンビニで売る商品に昭和に流行したものをリバイバルさせてみたら、若者に斬新さが受けて大いに売れたりするてうのだ。明治はもはや遠すぎて、ざんぎり頭を叩いてみても明治村の入場割引券が当たるのが関の山だ。そういへば大正村てうのもあったが、大正はちょっと短すぎてイメージの形成が難しいのだらうか。一口に昭和と言っても、その前葉は暗い戦争に陵辱されてゐるし、終戦直後の復興期は懐古の対象としてなり得ないかもしれない。となると自動的に好景気に支えられた昭和40〜50年代が、流行の対象になるのだらう。
以前或る資料館設立のお手伝いをしたことがあったのだが、民俗資料として一昔前のものをいろいろ収集してゐて、改めて集めやうとすると意外にも何処にも無いてうことがしばしばあった。収集対象の殆どが日常生活に密着したものであった為、尋ね歩くと誰もが「そんなものどこにでもある」とおっしゃるのだが、見つからない事の方が多いのだった。理由は簡単で、余りにもそのものが日常風景の中に溶け込み過ぎてゐて、余りにも身近過ぎてゐたため、てうことだ。例えば七輪。今はホームセンターなどで比較的容易に入手できるが、それは現代的に改良されたものが多い。昔土間でサンマを焼いてゐたやうな使い古されたものは、ひび割れたりガスレンジの普及により片隅に追いやられ、いつの間にか不燃物ゴミの日に出されて消ゑていったりしてしまうものなのだ。昭和も然り。忘れ去られたものの中にも、路地裏にも、まだまだ手の届く範囲に昭和は残ってゐるのだが、それを知る者が日常的な意識と切り離して保護活用しようとすれば、それなりに保存されていくだらう。
さて、我輩は何を保存しやうか・・・ その前に台風対策が先決だな。