お山とガリガリ君と流星群の関係

誰ぞ彼?

お山に入り、お山でお仕事せり。お山は他界なので、下界と違って人知で計り知れぬものの気配に満ちており、常に四方八方からの視線を感じる。お山お山と申せども、さほどの深山に非ず、険しき眼下はさほど距離を置かずに磯辺であり、お盆休みで発狂したやうに狂ひ喜び泣きわめくコビトどもの歓声や、出船入り船汽笛やエンジン音、はたまた管理され区画された砂浜に取って付けたやうに流されてゐるハワイアン音楽の断片などなどが、遠き潮騒に混ざってお山の木立を透かして響いてくる。恐らく下界の気温は35度以上なのだらうが、お山の原生林の緑陰はたいそう涼しくて、これで虫さへ居なければかなり極楽度が高い世界なのだ。時節柄これまた気が違ったやうに飛び回る吸血アブや蚊虫、地を這うムカデやヤスデゲジゲジや地壁蝨ばかりならず、何度見ても姿が見えぬ「ちくり」と刺す謎の虫や吸血コウモリ、人喰ひカラスやセアカゴケグモ、タランチュラ、毒サソリなどなど、妄想で多少誇張されてゐることは認めるが、とにかく恐ろしいものもいっぱい潜んでゐるのだ。このやうな原始の世界にも、方々にいにしへの人間の活動の痕跡が埋もれてゐるのであり、そんな古きを訪ねて昔に思ひを馳せつつも、密かに下界の冷たい飲み物を慕うてう煩悩世界であった。されど無限の煩悩を振り切り、草木深き山裾を半ば滑り落ち乍ら下山してみれば、たちまち炎天下の車中は灼熱地獄。三分後にはコンビニに立ち寄り、ガリガリ君ソーダ味)を頬張る我輩であった。しかしさすがの炎熱も黄昏と共に西の彼方に去り、美しきグラデーションの果てにはすでに夜半に出現すべきペルセウス座流星群の先走りが天空をよぎる。今夜は徹夜の観測になるかもしれませぬ。