Quo Vadis?

ここ3年分の「何処」

巴里のおばさまから、新しいTEXTAGENDA 2004/2005 が届く。AGENDAとは即ち日記帳のこと。何故この時期かといえば、フランスにおける新学期の開始は9月からで、早くも8月前には一斉に新しい手帳や日記が発売されるのだ。
1987年の9月に巴里に着いた関係で、それまで何かと工夫して書いてきた中国製の粗雑な手帳も物理的限界を迎えたことでもあり、使いやすそうな日記帳をと Quo Vadis 社の TEXTAGENDA を手にしたのが全ての始まり。縦17.4cm×横12.3cm×厚さ1.8cmほどの仕様で片面1ページ1日、上1/4は午前8時から午後7時までの時刻メモを書き込むレイアウトになっていて、シンプルこの上無い。特徴的なのは各ページの下側角にミシン目が入っていて、通過した日の分を切り離して行けば栞も不要だし、1年の消化日数を物理的に実感することができるという仕組みだ。以前のものは色つきの表紙も無い糸綴じ製本の本体で、ビニルカバーの色を好みに合わせて選ぶようになっていたが、最近のもの、特にEU統合以後のものはカバーが無くなってさまざまなデザインの色刷りの表紙に変化したようだ。内容は冒頭に1年分のスケジュールや祝祭日、毎日の聖人名などが数ページあり、巻末には各種メモ欄、各種公式、各種地図、パリ市交通地図、各国各種データ、URL各種などが付録として付いている。これらのことからもわかるように、日本で言えば中高生用を意識して作られているものなのだ。
もちろん Quo Vadis の製品には1月開始のものもあるのだが、日記の書き手としては習慣的に継続して書き続けている以上、余計な空欄が何ページも存在することはあまり気分の良いものではないのだ。自分の怠慢で何日も書かない場合もあるが、その種の余白ページには極めて寛容である。これは日頃の激しい修行の成果であり、盛夏でもあるのだ?!
とにかく欧州を浮遊していた3年間にこのTEXTAGENDAに慣れ親しみ過ぎた我輩は、帰国以後も巴里でお世話になっていたおばさまや友人を介していまだに入手し続け、利用し続け、書き続けているのだ。そりゃーいっときは日本製のものに乗り換えやうと思ったこともあるのだけれど、我が国の日記類はほぼ100%1月開始仕様であり、1月から8月までを白紙のまま使い続けることには抵抗があったし、かといって9月から書き始めたTEXTAGENDAの方を1月以降白紙にして捨て置くということも気分が悪い。よって入手できる環境にある以上、これを使い続ける運命にあるのだ。
今回のデザインはベン某によって為されたものらしく、表紙や本体のあちこち(月の変わり目などとは無関係な位置)に警句のやうな科白のやうな手書き文字が挿入されていて、面白い。直訳しても僕にはあまり意味のわかるものはなかったけど、「知恵のウインク」だの何だのと書いているから向こうの学生たちには受けるようなフレーズなのだろうね。今回のものにはURLが書いてあったのでネットで開いてみると、知らないうちに「クオバディス・ジャパン」も出来ていて、WEB SHOPPINGも出来るようになっていたのだ。来年からはおばさまの手を煩わせることなく入手出来るかな。それにしてもこの大胆な社名、Quo vadis, Domine? というラテン語の成句?が由来と思われるが、何とも示唆的だ。原意は迫害から逃れ行く耶蘇に向かって問いかけられた言葉「何処に行かれるのですか、主よ」であるが、耶蘇を除外するとたちまちその問いは哲学の領域に浸出する仕組みだ。
さて、我輩はこれから何処に行かう?