仏塔故事

オンマニペメフム

気になる系列第二弾は、巨大な仏塔である。比較的頻繁にその横を通っているのだが、初めて其の存在に気付いたのは4年前のことだ。県道脇の小さな丘の上に、唐突に本格的で巨大なストゥーパが鎮座まします風景は、なかなか印象的だ。最初に連想したのは、北京北海公園の巨大な白塔だった。故宮の西北に聳える西藏式仏塔の雄姿は、故宮周辺の様々なところから眺めることができるのだ。次に思い出したのが、カトマンズ、スワヤンブナートとボダナートのチョルテンだ。これらの上部には仏眼が描かれており、周囲をコルラ(周回礼拝)する無数の人々とともに印象的な情景を造り出している。実際にはこのどちらもそれぞれの形態であり、三者三様の構造になっている。
今回4年ぶりに仏塔に接近してみたわけだが、以前には確かに無かった「小さな」大仏殿が脇に出来上がっていた。仏塔正面の本尊仏の光背には「南妙法蓮華経」と書かれているし、欄干や壁に埋め込まれた石碑には「立正安国」だの何だの、日蓮宗に由来する言葉が彫ってあって、日蓮宗の寺院であることがわかる。宗旨宗派などあまり意味のあるものとは思っていないので、いつも携えているラサで買った香木の数珠を手に、右繞礼拝させていただいた。
噂の又聞きによれば、或る老人の意志を継いだ青年僧侶が独力で建立した仏塔と寺院とのことだが、真相は不明である。境内には古びて半ば錆の固まりになりつつある重機が横たわっていたが、以前は確かに奥の方で使っていた様子がみられたので、青年僧侶自ら操縦して造成に使っていたのだろう。大仏殿の裏には小さなプロペラ式発電機があり、勢い良く回っている。その脇の小屋には軽自動車が置いてあるので、僧侶の生活の場であることが察せらるる。それはそれは質素な小屋で、外から見る限り6畳が2部屋だけだ。この状況を総合的に考えると、僧侶の信念と求道精神は並々ならぬものであることがわかる。仏塔の正面には土台状の空間が設けられているので、本殿に相当する建物を計画しているのかもしれない。
仏塔と大仏殿の清浄さを現しているのが、境内の至る所に植えられた様々な花だ。様子を見る限り、多くの人が参詣しているようではないので、この僧侶の精神を一番良く理解しているのは、実は境内の花たちなのかもしれない。