身体変形習俗

あんた、だれ?

博物館で展示の手伝いをした。
自分の関わった縄文貝塚から出土した遺物の報告展示なのだけど、スペースの関係で過去発見された人骨頭部も展示することになった。もちろんそれは、古人骨の専門家によって復元されたものなのだけど、最大の特徴は所謂「叉状研歯」だ。抜歯されただけでも現代人の目からは十二分に奇異な状態なのだが、さらに上顎の前歯に切り込みが入れられている。叉状研歯の「叉」とは、すなわちフォークの意味だ。
切れ込みの深さはエナメル質ばかりならず、象牙質層にまで達していたと思われるが、その痛みは想像しただけでもう十分だ。こと、歯に関してはご幼少の砌より巨大な折り紙付きの虫歯持ちであります故。
抜歯にしても同様なのだけど、何本も同時に抜く意味は何だったのだろうか。一説にはある種の成人への通過儀礼とも言われているが、歯の有無が生命維持と直結していた時代のこと、肉体的苦痛を遙かに超越した精神的な意味合いがあったに違いない。
抜歯に関しては研究が進み、抜き取る歯の組み合わせによってその者の出身や所属を現しているということだ。今から思えば歴史的にはつい先日まで行われていた「お歯黒」だって、奇妙で不気味な風習だ。ラオスなどの首長族の風習や、中国で行われていた纏足だって、当時は取り立てて奇異なものではなかったのだ。
現在何気なく行われている化粧や茶髪だって、百年後には研究対象になっているかも知れないな。外反母趾も纏足習俗の延長線上のものと誤解されるのかもしれないし・・・