それぞれの言い分

アゴヒゲのことです

スフィンクスの髭」という言葉を聞いたことがある。
それはエジプトのギザの三大ピラミッド前に鎮座する著名なスフィンクスの一部だったもので、大英博物館に保存されているというのだ。
実際に展示はされていないようなその石塊が持つ意味は、極めて大きい。何年ほど前だったか、エジプト政府がその石を返却せよと言い出したらしい。ロゼッタストーンの如く文字で荘厳されたものでもなく、他の考古学遺物に比べてとりわけ重要性が感じられないような石塊の象徴する意味は極めて重く、安易な返却は当然為されることはなかった。
よく考えてみたまえ、大英博物館の所蔵する膨大な文物のうち、植民地支配に由来する所謂「略奪物」がどれほどあるのかということを。
著名な遺物の殆どが、旧植民地体制の副産物であり帝国主義の遺物でもあるわけで、たかがスフィンクスの髭、されどスフィンクスの髭というわけだ。
もしこの石塊1個の返却に応じれば、さまざまな国からの遺物返還要求が殺到するであろうことは想像に難くないのだ。
勿論、英国側にも言い分はある。「我々が大ブリテン島にこれら遺物を運んで保存していなければ、現在まで残っていなかったことだろう」と。その言い分にも一理あるものの、現在では遺物の産出国がそれらを保存管理し得る技術的経済的基準に達したとき、所蔵国はその返還を真摯に検討した上で、可能なら返却すべきであるというたてまえになっている。
確かにそうだな、バグダッドでもカーブルでもそうだったが、戦争の混乱で考古遺物が略奪されることは当然のことであり、例えば現状のイラクに文物の管理能力があるとは思われない。
そういえば日本にもシルクロードの諸遺跡から略奪してきた文物がかなり有るのだ。当時は欧米列強諸国を中心とした探検ブームの最盛期であり、彼らと同等であるという妄想を抱いていた日本国も、さまざまな探検隊を派遣し、いろいろなものを略奪してきていたのだ。
もっとも略奪者の言い分では「探検踏査による文物収集」ということになるのだろうな・・・