今宵十五夜


 
 

 
 

 
 

 
 

 
 
八月はつき十五日もちばかりの月にいで居て、かぐや姫いといたく泣き給ふ。
人めも今はつゝみ給はず泣き給ふ。
これを見て、親どもゝ「何事ぞ。」と問ひさわぐ。
かぐや姫なくなくいふ、「さきさきも申さんと思ひしかども、『かならず心惑はし給はんものぞ。』と思ひて、今まで過し侍りつるなり。
『さのみやは。』とてうち出で侍りぬるぞ。
おのが身はこの國の人にもあらず、月の都の人なり。
それを昔の契なりけるによりてなん、この世界にはまうで來りける。
今は歸るべきになりにければ、この月の十五日に、かのもとの國より迎に人々まうでこんず。
さらずまかりぬべければ、思し歎かんが悲しきことを、この春より思ひ歎き侍るなり。」といひて、いみじく泣く。