文月新月蝉人間


 
 

 
 

 
 

 
 

 
 

 
 
 
 
夏が来て、庭の方々でセミの抜け殻を見かけるやうになるといつも思ひ出す。それは小学校の同級生だったK君のことだ。
何かに取り憑かれたやうに、学校の裏山で木々の根元を掘り起こしてはセミの幼虫を集めてゐた彼だが、虫籠に入れたまま家の軒先に放置しておき、かなり多くの幼虫を殺して仕舞ふ悲しい結果となったことは、小学校でも知る人ぞ知る事件であった。
其ノ後はっきりとした理由は不明なのだが、学校で彼の姿を見かけることはなくなって仕舞った。さまざまな説が同級生の間で流れたが、或る時風の便りで彼がセミ人間になって仕舞ったてうことを聞いた。
其の風貌は恐らく、上の画像のやうなものである可能性が高いのだが、場合によってはケムール人やバルタン星人のやうな風貌に変容してゐるのではないかと考へると、今でも恐ろしくて眠れないことさへあるのだ。
其ノ後セミ人間に関する話は同級生の間ではタブーになり、今でも思ひ出すだに背筋の凍るほどの不気味さで我輩の深層部分に横たわってゐるのだ。
同様に、異常なまでの跳躍力で飛び跳ねるカマドウマに關しても、こちらは恐らく「地獄草子」か「漂流教室」の影響だと思ふのだが、恐怖の領域に其の存在が擦り込まれて仕舞ひ、現在に至るまでも触ることはおろか、一瞥することさへ身の毛もよだつ思ひがするのであった。