魚の日的音楽

四月の魚

或る意味クラシックファンの常道であり長年さまざまなものを聴き続けてきた者が必然的に辿る道であらうが、最近では密かに変形ものも積極的に聴いてゐる。
今回導入した音源は二種類だが、とりあえず今天はブゾーニ版の紹介。
此のアルバムは Ferruccio Busoni *1による piano transcriptions (ピアノ編曲版)で、Liszt, Bach, Mozart, Novachek, Offenbach の作品が並ぶ。演奏は Holger Groschopp と書いてあるが、素性はよく知らん。NAXOS から7枚ほどCDを出してゐるやうだから、若手中堅なのかもしれん。
演奏のタッチは多少無骨でトゥリルが粗雑な部分も気になるが、音圧は高めで対位法の処理はほぼ完璧。いきなり「大フーガ」と題されたバッハの未完のフーガにモチーフを取った作品から開始されるが、フーガの展開部分の息詰まるやうな緊張感が凄い。後半の、無調的半音階的別世界にとりとめもなく広がっていく世界の纏め方はうまく、第3部の複雑な音の交差は時折連弾かと思はせるほどの巧みさ。20分もの大作の coda は「展覧会の絵」風に大仰に終結するのだが、飽きさせない。
この他、ノヴァーチェックなどは原曲を知らんから何とも言へぬが、常動曲のやうなスケルツォモーツァルトの小曲はおまけっぽい。リストは原曲以上に技巧が凝らされてゐて、いったいどうやって演奏してゐるのかもわからんほど。
アルバムとしてのボリュームは十分で、一応12曲分収録されてゐることもあって、2枚分の聴き応えはある。
兎に角、ブゾーニの編曲能力は原作に端を発し、超絶技法に支へられて彼独特の無調正的宇宙音階世界を創造していくのであって、道理で興味は尽きないワケだ。
あらためて巴里で観たオペラ《ファウスト博士(Doktor Faust)》を再度聴いてみたくなったのだが、注目すべき、また、驚くべき作曲家であることに間違ひ無い。
 
 
フェルッチョ・ブゾーニ - Wikipedia
 
Holger Groschopp (Piano) - Short Biography
 

ブゾーニ:ピアノ編曲集 第2集

ブゾーニ:ピアノ編曲集 第2集

 
 

 

*1:本名はダンテ・ミケランジェロ・ベンヴェヌート・フェルッチョ・ブゾーニ (Dante Michelangelo Benvenuto Ferruccio Busoni)