双十節電影三昧

為什麼18?

執拗に押し寄せる「18」の攻撃を潜り抜け、今天は午後から、東海環状自動車道から集中工事の休止された東名高速道路を西へ。
しかし此処でもまた、「18」番のインターチェンジで高速を下り、向かった先は国内最大級「18」のスクリーンを持つシネマコンプレックス UNITED CINEMA へ。
毎月1日の映画の日には終日1本1000円で鑑賞できることは知ってゐたが、今天10月10日双十節はユナイテッドシネマ10周年記念キャンペーン中とのことで、矢張り終日1000円になってゐた。コレは予期せぬ好消息で、嬉しいこと。
今回は約1ヶ月ぶりのパナリ荘帰宅を兼ねてのことだが、明るいうちの到着は当の昔に諦め、観念の上の三本立て。
 
※我輩が高速道路を走行中ず〜っと最後まで、前に自衛隊ジープが走行してゐて、そのナンバーにも「18」が! これを単なる偶然として済ませておいて良いものだらうか?
 
 
 
 
*******************
  
色即ぜねれいしょん 原作:みうらじゅん、監督:田口トモロヲ
原作の意図を、恐らく以心伝心的に、しかも十二分に汲み取ることが出来るてう意味に於いては、田口トモロヲ以上の人選はなかなか望めないだらう。(いとうせいこうなら足元に及ぶかもしれないが、近すぎて監督にはなりきれんだらうな)
ヤンキーにも不良にも体育会系にもなれない、ごくごくフツーの文科系男子高校生。彼らのフツーの夏休み、そして日常。期待と不安、そして平凡で悶々とした日常。
恐らく、その真っ直中に居る当事者たちにはまったくわからない苦しさや苦さ、そして甘酸っぱく切ない思ひ出の数々。将来確実に懐かしむべき、愛しくも青臭い青春時間がよく表現されてゐた。
勿論、みうらじゅんと同世代てうこともあるし、彼の奇妙な性癖と自分のそれが被る部分も多々あるので、些かご贔屓目の評価ではありますが・・・
なんといっても田口監督は元『鉄男』てう経歴を持つ異色の役者だし、主演の渡辺大知はとてもカワイイし、臼田あさ美は必要以上にsexyだったし、主人公の両親がリリー・フランキー堀ちえみであることに驚いたし、一度しか聞いたことない銀杏BOYSの峯田和伸ヒゲゴジラだとはわからんかったし、くるり岸田繁が怪しい家庭教師になってたり宮藤官九郎まで出てたりと、或る意味極めてみうら的なマニアックなキャスティングに安心して仕舞ったワケだ。
単に変人中年の自己満足だけに完結せずに、ちょこっとイロイロな方面にはみ出して終はってゐるところに好感が持てた。



色即ぜねれいしょん オリジナル・サウンドトラック

色即ぜねれいしょん オリジナル・サウンドトラック



 
ココ・アヴァン・シャネルCOCO avant CHANEL エドモンド・シャルル=ルーの同名小説を原作としたココ・シャネルの伝記映画。主演:オドレイ・トトゥ、監督:アンヌ・フォンテーヌ
荒々しい作りの作品だった。監督は女優でもあるのだが、オドレイ・トトゥをかなり強引に逡巡させた形跡があちこちに見られた。
オドレイ・トトゥは『アメリ』以来変はらぬ、節のある物言ひ、即ち、流暢でも優雅でもない喋り方et歌い方で、『ロング・エンゲージメント』から『ダ・ヴィンチ・コード』を経て、確かに英語も流暢だったが、表情の無い硬さはよほどそんな表情を必要とする作品か、そんな女優を操ることの出来る監督でなければ生かされないのだ。
結論から言って仕舞へば、今回の作品でもオドレイ・トトゥは鉄面皮で通し続けるのだが、些かスケール感には欠けるものの、最後に、鏡で囲まれた螺旋階段をシャネルの作品に身を包んだモデル達が優雅に降りてくるシーンは幻想的で、オドレイ・トトゥのはにかんだやうな笑顔が、すれまでの全ての固い演技を打ち消して仕舞ふだけの力が有った。
ちなみにシャーリー・マクレーン主演の『ココ・シャネル』(2008)でも若き日の彼女のエピソードがいくつか出てきたけど、全く違ったタッチだった。でも、多角形の鏡を用ひたプロフィールの映し方とアングルに共通点が見られ、興味深い。
 

 
 
ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』 原作:太宰治、監督:根岸吉太郎
太宰の作品は一通り読んでゐるけど、基本的に嫌いだ。メリハリがないし、懈怠感と倦怠、そして頽廃と偽満に満ちていて、どの作品も耐え難ひ雰囲気を持ってゐるからだ。
ほとんどの作品は映像的な表現に満ちてゐるし、作品によってはドラマの脚本かと思はれるやうなものもあるので、映像化そのものに難は無いだらう。その分、役者の力量や時代考証が全てを決めて仕舞ふ可能性が高いので、リスクも高いわけだ。
浅野忠信は先のオドレイ・トトゥの如く、殆ど笑ふことなく無表情且つ憂鬱さうな表情で演技を進めるが、有名な太宰のポートレートを意識しすぎだ。片や健気な女房を熱演する松たか子は器用な演技を見せるものの、最後まで画面から数ミリ浮いて仕舞ってゐるのが残念だ。
あれほどの放蕩火宅の作家の女房なのだから、ふと息を抜いた隙に窶れた表情や厭世的で自暴自棄な心理を無言で表現できる女優でないと、あの役は難しいだらう。
広末涼子は心中の相手役としてお飾りに過ぎないので安心したが、妻夫木聡はなんでどの作品に出てもイケメンアイドル風の髪型なの? 何か事務所との取り決めでイメージ死守戦略が敷かれてゐるのかもしれんが、「天地人」で戦国武将にしてあのヘアモデルのやうな髪型は絶対無からうてう大胆さで出演。そしてこの映画でも、しがない旋盤工にしてこの清潔さと可愛さ。いったいだうなっとるの?
とまれ、根岸吉太郎監督は日活ロマンポルノ出身で、過去の作品は『狂った果実』『遠雷』(1981)、『探偵物語』(1983)しか観ていないが、人物描写は手堅く纏めることの出来る人物らしい。
今年は太宰の生誕百年てうことで、作品の再評価なども盛んらしいが、読者の中心である若者達が太宰のいったいだういふ面を評価してゐるのかが問題だ。
 


 
*******************
  
てうわけで、これらの他にも何本か、例へば『カムイ外伝』『私の中のあなた』も観たかったが、次回にお預け。

  

最後は観客8人だけ・・・