新月毒の恐怖

新月毒」が延髄あたりから脳内に滲入し、視床下部を経て脳梁に達し、酷い頭痛に苛まれる。
 
このやうな痛みは年に何度か、それも常に新月の前後にやってくるので、密かに「新月毒」と呼んでゐるのだ。
発症のメカニズムは複雑繊細、情緒やとりわけサンチマンタリズム、感情の襞の蠕動機能低下などを伴ふことが多い。
うんと若い頃には一時期、新月のたびにナルコレプシーのやうな発作的睡眠に襲はれたことかあったが、半年余りで此の症状は消えて仕舞った。
しかし、此の新月毒ばかりは未だ以て消えないどころか、罹患回数は減少傾向にあるものの、加齢とともに症状は悪化するばかりのやうだ。いくら月の世界の住人に科されたイニシエーションとはいえ、辛いものは辛い。
今回の症状はとりわけ酷い頭痛だったが、倦怠感だけの時や激しい眠たさとして発症する場合もある。このやうな場合には十全大補湯補中益気湯、葛根湯はおろか、アスピリンもアルカセルツァもノーシンも効かないことはわかってゐるので、昨夜は少し多めに水を飲んで眠った。
そして正式に?起きたのが今天午後5時のこと。
途中明け方と、そして昼頃には仕事関係の電話があって起きたやうだが、ちゃんと対応したのかだうか記憶が曖昧だ。明天からの工作拠点への出発予定と来週の予定は手元のメモに複数項目書き残されてゐるので、これらの対応は適当に処理されたものと見なすべきだらう。
 
それにしても、何回経験しても此の新月毒はイヤなものだが、副作用の全てが苦痛てうわけではなく、唯一の恩恵は「蘇生感」だらうか。
これとて的確な表現ではないが、長時間の睡眠後、頭痛や倦怠感などの症状が消失すると同時に、何か地球全体に同時に清々しい夜明けが訪れた時のやうな、不思議な爽快感が有るのだ。
我思ふに、或る領域の脳細胞が短時間のうちに死滅し、其の部分に新たな神経経絡が再生されたやうな状況を想像させる感覚で、こればかりは意図して得られる感覚ではないだけに、新月毒の残す唯一の恩恵として評価しておかう。
ひょっとしてお駄賃?
 
とまれ、文月の新月は再生を開始し、9月5日(旧暦7月17日)の満月を目指し満ちゆくのだ。