イロイロな音のことなど

冬の森の秘密の実

ヴァレリー・アファナシエフの弾くシューベルトピアノソナタ第18番ト短調作品78 「幻想ソナタ」:アーティキュレーションに明瞭な意思を感じさせる独特の演奏で、テンポやリズム界に於いて挑戦的なモーツアルトピアノソナタの時とは違ひ、第1楽章 Molt moderato e cantabile も第2楽章の Andante も寧ろ極めて理性的な印象を受ける。リーフレットに掲載されたアファナシエフ自身のエッセイが興味深いが、彼の常套的表現法である所謂「詩」の懐柔による感情の形容は、真の意図を知るためにはかなりの情緒的蠕動を差し引ゐて読み解く必要がある。
曰く、「スクリャービンリムスキー=コルサコフとは違って、私はいはゆる色彩の感覚といふ才能には恵まれてゐない。だが、それでも、私は、ソナタ作品78の耐へ難いほどの白さを感じ、そして見るのである。その始まりの楽章は、始まりにではなく、何か、例へば瞑想、長い旅路、不眠の夜長、短い生涯などのやうな何かの終りに置かれてゐるかのやうに思へる。」と。
憂ひを内包した長調の音の連なりは、いつ終はるとも知れぬ「天国的」な息の長さで鳴り続けるのだが、とりわけ晩年のソナタに見られる狂気は、崩壊しつつある精神の表層をそのまま音楽として表した好例だらう。
ベートーヴェンの音楽に於いて、長調短調は、歓びと悲しみといふ人間の気分の古典的な対立関係を表してゐるやうに思へる。シューベルト長調に悲劇的な含みを与へて、我々の忍耐力を限界まで試さうとする。彼の晩年の作品に於いては、長調短調がほとんど交代可能なのだ。」

シューベルト:ピアノソナタ第18番

シューベルト:ピアノソナタ第18番

     
次に我輩が聴く音楽は、映画「GYPSY CARAVAN」のサウンドトラックアルバムである。
イギリス生まれの女流映画監督(何故「女流」と表現するのか?)であり作家であるジャスミン・デラル氏製作の此の映画は、世界中から集まったジプシー音楽家35人が1台のバスに乗り込み、北米大陸を6週間かけてツアーするてうロードムービー
Antonio el Pipa Flamenco Co. Fanfare Ciocarlia など、フレーズやフラグメントを含む24曲が収められてゐるのだが、映像を離れても猶、ざらついた砂の如き土俗の感触が濃厚に残る1枚だ。
ジプシー・キャラヴァン

ジプシー・キャラヴァン

    
そして最後は ENO-BYREN の名盤、MY LIFE IN THE BUSH OF GHOST
既に四半世紀近い前の作品だが、サイケでテクノでアンビエントな音の世界は今聴くに相応しい。
TALKING HEADS 的なシャウトやアフリカンリズムの応酬はレイブの世界だし、The Catherine Wheel に共通な雰囲気も有る。勿論、此のアルバムを聴いてゐるかだうかで今年出た新作 Everything that Happens Will Happen Today の印象が変はって仕舞ふのかもしれないが、其れは其れとして別世界の出来事として愉しんだ方が良いのかも知れない。
My Life in the Bush of Ghosts

My Life in the Bush of Ghosts

      
     
       
        
       
    

そしてまた、珈琲1杯・・・