空想も妄想も黄昏の彼方から生まれ出づるもの

原始的な調理法ほど美味い

オリジナルの映画 The Day The Earth Stood Still 「地球の静止する日」ではなく、最新作の「地球が静止する日」のTVCMで使はれてゐた会話の一節。
  
“Why have you come to our planet?”
   
“Your planet?”
  
国防長官役キャシー・ベイツの毅然とした質問に、急速に地球環境と人類てう生態に順応をし始めたクラトゥことキアヌ・リーブスの吐く台詞だが、其の表情と言ひやうが絶妙だ。
たった単語二つ+?だけを、これほど巧みに表現できる役者はさう多くはないだらう。
そもそも此の映画、監督のスコット・デリクソン以下、脚本:デビッド・スカルパ、撮影:デビッド・タッターサル、美術:デビッド・ブリスビンと各種デヴィッドの三位一体的集合。音楽:タイラー・ベイツキャシー・ベイツの親戚かだうかは知らんが、ベイツと聞けば矢張り「サイコ」を連想するし、サイコと聞けばアンソニー・パーキンスだな・・・
(-_-;)
   
兎に角、此の短い会話に今回リメイクされた映画の全てが語り尽くされてゐるワケで、人間として再生した宿命なのか、クラトゥが情に脆過ぎることだのジャイアント・ロボがどのやうに無数の昆虫型ロボットに分解していくのかとか、NYのセントラルパークだけでなく、中国は万里の長城に飛来した球体に中国人達はどのやうに対応したのかとか、内容も呆気ないエンディングも突っこみどころの多い作品になってゐたが、まあこれはこれでよいではないか。
一方 WALL・E の方はと言ふと、並のSF映画を寄せ付けないほどの壮大な物語りだが、キャラクターの魅力が全てを支へてゐるだけかと言えば、さふではない。いかにもピクサーらしい丁寧な造り込みが為されてゐて、幅広い観客に満遍なくアピールする作風はさすがだ。
個人的にはフル・ソーラーチャージを知らせるのがマックの起動音(例の”ジャーン”)だったりiPodが登場したりと、林檎派には嬉しい仕掛けも方々にあったりする。古典SFの聖書的存在である「2001年宇宙の旅」で神格化されたR.シュトラウス交響詩ツァラトゥストラはかく語りき」も、実に的を射た場面で流されるし、HAL9000を連想させる人工頭脳オートの存在や、宇宙船のコンピューターの声がシガニー・ウィーヴァーだったりと、ピクサーの中のSFオタクのアイデア総動員といった様相。そして何よりも、廃墟ファンとしては廃棄物に満ちた未来世界の退廃的且つ遺跡的な風景が壮大で、感傷的なほど美しく感じるのであった。
(-_-)
   
そんなこんなを思ひ出し乍ら、今宵は何故か栄螺の壺焼きを堪能。秘蔵しておいたムスカデ・ド・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー・クロ・デ・ブルギニヨンを嗜み乍ら・・・(カタカナで表記すると宇宙語のやうだ)
     

美しき冬の黄昏に乾杯!